【11.13イベント連動企画 開発組織が選んだ一歩 #1】matsuri technologies CTO・VPoEに聞く、旅とすまいの自由を、開発組織はどう支えるのか?

AI活用の幅が広がり、開発のスピードはより一層上がりつつあります。
では、その開発は誰に、どのような価値を届けているのでしょうか。

本連載では11月13日開催のイベント「顧客の暮らしのために、開発組織の選んだ一歩とは? 〜顧客価値を追い続ける開発者たちの実践知〜」にご登壇いただく3社に、開発組織が選んだ一歩を伺います。

第1回は、「『旅』と『すまい』の自由を全ての人に」をビジョンに掲げ、民泊やマンスリーマンション、ホテルを運営するmatsuri technologies株式会社。
CTOの石橋 佑輔氏と、VPoEの前島 治樹氏にお話を伺いました。

プロフィール

matsuri technologies株式会社 執行役員CTO 石橋 佑輔氏

アーキテクトとしてWebサービスの設計と開発を担当後、2019年にmatsuri technologies株式会社に入社。CTO・開発部長として参画し、プロダクト開発、エンジニアチーム統括、採用活動などに従事。2022年11月より執行役員として開発部門を統括。

matsuri technologies株式会社 VPoE 前島 治樹氏

ビジネスエンジニアリング株式会社、タイムチケット、MUGENUP(システム部長)、D2Cスタートアップを経て、2021年9月にエンジニアリングマネージャーとしてhokanに入社。エンジニアリングマネージャー、人事責任者を歴任した。2025年3月にmatsuri technologiesにVPoEとして入社し、同年11月〜2026年6月までVPoE兼人事部長として全社の組織設計を行う。現在はVPoE専任。

お二人は、matsuri technologiesで何を担っているのか

――お二人の担当領域とその違いについて教えてください。

前島: 人のマネジメントを中心に、採用をはじめとする開発部全体のマネジメントを見ています。
どうすれば開発部のメンバーが力を発揮できるかを整理するのが、私の役割です。
また、技術広報も担当しています。

――いま、お二人が最も力を注いでいるテーマは何ですか。

前島: 会社が成長しなければ、何も始まりません。
だからこそ、「会社の成長を支える開発組織の土台づくり」を、テーマの1つに据えています。
大変なことも多い中ではありますが、今いるエンジニアがワクワクし、楽しいと思いながら働けることも大事かなと思っています。

――事業への貢献のために、開発部としてどんなことをしていますか。

石橋: 私がCTOとして開発部のミッションに掲げているのが、「事業にコミットし、そしてドライブできる組織になろう」という大きなチャレンジです。

当社は事業会社でもあります。事業を前に進めるため、開発部も事業部と同じKPIや数値を追いかけています。
そのうえで、「エンジニアとしてどんな改善ができるか」「目標達成にどこまでコミットできるか」を見ています。

現場を正しく理解し、現場が見ているKPIや事業部の考えを踏まえながら、事業を前に進めるためにエンジニアリングの力をどのように使えるかを一緒に話し合う。
事業部と開発部が肩を並べて前に進む形を考えています。

――前島さんの入社で、開発組織はどのように変わりましたか。

石橋: 私はもともと、マネジメントが得意でCTOというポジションにいるわけではありませんでした。
マネジメントの面では、いつも前島さんに助けてもらっています。
大きな目標は基本的に私も出しますが、「組織をどう組むか」「目標をどう設定するか」といったhowの部分は、前島さんに支えてもらっています。

前島さんのおかげで動きやすくなり、開発部として前を向けるようになりました。
心なしか、エンジニアも明るく働いてくれているように感じます。感謝していますし、安心感もありますね。

自分たちの開発を、誰に届けたいのか

――サービスを通じて、誰にどんな価値を届けたいですか。
地域のお祭りに社員が参加し、お神輿を担ぐという取り組みもされていると伺いました。

石橋: 当社が手がけているのは、空間をお貸しする事業です。民泊やマンスリーマンション、ホテルを運営しています。
当然ながら、最もサービス利用が多いのはインバウンドで日本にいらっしゃった外国人旅行客の方なので、こういった旅行客に向けた宿泊施設を多く提供しています。

旅は泊まるだけでなく、食事や観光など様々な体験で成り立っています。
そのため、旅の体験において、宿泊施設はかなり大きな比重を占めるのではないでしょうか。
良い宿泊施設と体験を通じて、「日本に来てよかった」「日本が好きになった」と感じて帰っていただきたいという思いが、サービスの前提としてあります。

石橋:もう一方の相手が、地域住民の方々です。今、民泊は社会の風当たりがやや強くなっています。
事業者として、気を引き締めなければいけないと感じています。目指すのは、「地域住民の方々に安心して民泊を受け入れていただける運営」です。

石橋:お神輿を含め、地域の活動を活性化したいという思いもあります。
ゲストにとって、ローカルのお祭りは非常に珍しく、参加できる機会はなかなかありません。
我々としては、トップオブトップの観光地に人を送るよりも、泊まっていただいた場所に根差したイベントや体験を楽しんでいただきたい。
送客できれば、オーバーツーリズムの話題にも絡めて、ゲストにも楽しんでいただけます。地域住民の方々にとっても、プラスになっていくのではないかと思っています。

前島: 石橋の話とほぼ重なりますが、当社が運営しているのは宿泊施設です。
ただ、大手のホテルチェーンと違い、地域の方からすると「何をしているか分からない会社が、何かをしている」というように見えてしまうんです。
この見え方は、宿泊しているゲストに対しても大変申し訳なく思います。
せっかく日本に来てくださったのに、街を歩いていて白い目で見られる経験はしてほしくありません。
特別な歓迎とまではいかなくても、「いい場所だったな」と思ってほしい。

前島:例えば「墨田区の向島はすごく良かった」と、自分の国に帰って話してもらえる。
世界から見れば向島はとても小さな地域ですが、向島という地名が広がるだけでも大きな価値になると思っています。
なので、地域の方々のご理解はやはり非常に大切です。

お神輿も、地域住民の方々の理解を得るためにやらせていただいているものです。
中長期戦略として非常に重要なのは、「こういう人たちが泊まっているなら安心だ」と地域の方々に思っていただけるかどうか。
加えてゲストが喜んでくれれば、二重に良いことだと思います。

顧客や現場に向き合う中で、何を問い直しているのか

――現場への理解を深めることは、もともと狙っていたのでしょうか。

前島: 狙っていたわけではありませんが、観察しながら街を歩くことは大事だと思っています。
当社は住宅宿泊事業を営んでいるので、一見ただのマンションが、実は当社の運営する民泊物件だった、ということもしばしばです。

ただ、マンションとして眺めるのではなく、「もしかしたら他社の民泊かもしれない」
「民泊なら、ゴミ問題は大丈夫だろうか?」「落ちているたばこは、ここの宿泊客のものだろうか?」などと考える。
そうした感性を持ってほしいと思っています。

石橋: 取り組みと呼ぶほどのものではないかもしれませんが、開発部に限らず社内全体で、新しく入社した方に運営物件を見学してもらうことがよくあります。
実際の物件を見る体験は、非常に大切です。

部屋に入るときは、ゲストと同じインストラクションや説明文を見ながら、「本当にこれで入れるだろうか?」と気にしてみます。
中に入ったら、「説明は分かりにくくないか?」「ウェルカムな雰囲気があるか?」を確かめる。
実際に見てみると、意外と多くの気づきがあるんです。
体験をもとにゲストの気持ちになることは、意識しているポイントです。

――顧客や現場と向き合う中で、いま問い直していることなどは何かありますか?

石橋: 東京都内や大阪などで、民泊への風当たりが少しずつ強くなっています。
この話題自体は、直近で上がったものではありません。
1年以上前から、事業者としてどう向き合うかを社内で課題に感じてきました。
日本国内で最大級に運営施設が多い事業者として、なおさらです。

石橋:地域住民の方々の理解を求めながら、最善のルールにしていく。
ルールを適正化し、実効性のあるものとして自ら遵守するということに、まさに今取り組んでいます。

前島: 開発組織に限っての話ではありますが、当然、エンジニアに求められる要件は増えてきています。
これまでは、課題に対してプロダクトやテクノロジーでロジカルに解決することが、大きな比重を占めていました。
しかし今は、自ら課題を見つけに行くところから始める必要が出てきています。

そうなると、何が問題なのかを理解する力がどうしても必要です。
「それって別にやらなくてもいいじゃん」という考えを捨て、「これは問題ではないか」「誰かが困っていないか」と捉える視点や感性が、今後必要になってくると思っています。

前島:ただ、転職市場や経歴の中で課題を見つける力を訓練してこなかったエンジニアは、日常生活ではできても、仕事ではできない、ということが多いように感じます。
我々の開発組織も、できる人が多いと信じてマネジメントしてはいますが、例外ではないと思っています。

では、どのようにして課題を見つける力を育て、育つ環境を作るのか。
課題を見つけられる人を採用するには、どうすればよいのか。
採用したい人に選ばれる会社とは、どんな会社なのか。
ここが我が社の課題であり、問い直すべきところだと思っています。

この問いに向き合うmatsuri technologiesでは、AI前提の開発で速度は上がった一方、
高いアウトカムを生み出せていないという課題にも直面しました。
11月13日の講演では、その課題にどう向き合っているのかを伺います。

AI時代の開発組織として、どんな価値を届けていきたいのか

――ソフトウェアもハードウェアも扱えること、事業部への貢献を目指していること。
こうしたチャレンジを支えるものとして、前島さんは「土台」を大事にされています。前島さんの言う「土台」とは、何を指しているのでしょうか。

前島: マネジメントの観点で言えば、1つは開発資本の中にある人的資本のことです。目標設計と評価が、チームの中で適切に回っているかどうかですね。

昨年は、目標設計と評価が特定のレイヤーで属人化している状態でした。今は、弊社EMの花田や大島に渡すことで回っています。
花田や大島のレイヤーで自律的に回るようになれば、1つの資本としての土台になると考えています。

目標がきちんと立てられ、評価される。辛い評価も甘い評価も含めてです。
そして、フィードバックを受けた側に行動変容が起こる。ここまでが、人的資本の基本的な土台だと思っています。

もう1つは開発のフローです。ボトルネックがなく、スムーズに開発できるかどうか。開発資本の中でも、技術の領域だと捉えています。

――フィードバックは、マネージャーによって観点がぶれたり、信頼関係によって受け取り方が異なることも多くあります。
気をつけていることはありますか。

前島: 「感謝しているかどうか」ですね。
働いてくれていることへの感謝は、未熟ながら過去の経験ではあまりできていませんでした。
今のmatsuri technologiesでは、この点についてかなり慎重に取り組んでいます。誰が何をしてくれたのかをきちんと覚えておき、本人に感謝を伝える。
わざとらしく聞こえるかもしれませんが、「ちゃんと見てくれているんだ」と感じてもらうことが重要だと思っています。

――自社のメンバーには、どんなことができてほしいと考えていますか。

前島: 1年ほど前までは、とにかく難易度の高い開発をイメージしていました。
しかしAIの急激な進化で、コーディングであれば、難易度の高い開発もある程度できてしまうと感じるようになりました。

そこで今は、ホテルの現場作業を積極的にこなすようにしています。
ホテルの開業が速いペースで続いているので、実際に現場へ行ってカメラを設置するような作業をしています。
これは、私から明確に指示したわけではなく、メンバーが現場へ行くような文化が自然と出来上がってきました。
触ったことのないもの、やったことのない経験を、ソフトウェアだけでなくハードウェアも含めて構築できる環境が整えられているか。
その点を意識しています。

前島:もう1つ、今後の伸びしろとしてあげられるのは、「開発部がこれをやってくれたおかげで、こんな良いことが起こった」という声を、もっと増やしていくことですね。

――開発の力を高めて、どんな変化を届けていきたいですか。

石橋: 開発側に焦点を当てると、当社は事業会社としてビジネスに取り組んでいます。
開発部の役割は、事業を進める人たちが全力で前に進めるよう支える「エンパワーメント」や「イネーブルメント」に近づいていくと考えています。

今はAIが非常に広まっており、業務部門自らが次々とダッシュボードやアプリを作るなど、これまでエンジニアが担ってきたことを「普通の仕事」としてこなせるようになってきました。
そうなると開発の仕事は、事業部側がAIを使ってやりたいことを実現しようとするときに、「どうすれば躓かないようになるか」を考えることになります。

石橋:一方で、AIを活用して様々なことに取り組もうとなると、セキュリティや個人情報の取り扱いといった「守り」の部分に、もう少し気を配ったほうがよいと感じています。
事業を前に進めたい人が守りの部分をあまり気にしなくても、様々なことが整う。
そうした環境を当社としてどう提供するかを、強く意識しています。

前島: これまで、エンジニアの人件費はプロダクトを生み出すためのものでした。
すぐに利益を生むか分からない、いわば「コストセンター」として位置づけている組織も、いまだ多いのではないかと思います。

しかしこれからの開発組織は、事業全体の生産性を上げていくフェーズに突入しています。
そう考えると、「開発部」という名前が適切なのかすら分からなくなってきてしまいます。
来年には、全く違う形になっている可能性も十分にあると思っています。

前島:それでも、エンジニアリングマネージャーやプロダクトマネージャー、CTOやVPoEといった既存の役割は必ずあるはずです。
役割の再定義は、我々だけで必死に考えるより、まさに今回のイベントで一緒に登壇される企業(カインズ・オイシックス)とも考えていければよいのではないかと思っています。
これは、CTOやVPoEが集まるイベントでも、大きなテーマの1つになっていくのではないでしょうか。

これまでとは違うバックグラウンドを持つ人が、VPoEやCTOになることも十分にあり得るでしょう。
3年後か、もっと早いかもしれませんが、営業出身の人がCTOになる可能性もゼロではないと思っています。

生産性(フロー)と開発資本(ストック)を分けて捉え直したmatsuri technologiesは、何に再投資しているのか。
11月13日のイベント当日は、相談会や、年次を問わずプロジェクトを任せる文化が、
「個人の実践」を「チームの資本」に変える過程を、手応えと残る課題も含めてご紹介いただきます。

11月13日、イベントでは何をみんなで考えたいのか

――イベント当日、参加者と一緒に考えたいことは何ですか。

石橋: エンジニアの役割は、かなり変わってきていると思います。
今後は開発の仕方や体制も大きく変わり、当たり前の基準もどんどん変わっていくでしょう。
「エンジニアとしてどう生き残るか」とまでは言いませんが、役割や求められるものがどう変わっていくのか。

また、エンジニア以外のバックグラウンドからエンジニアに転向し、モノづくりをしたいと考える人も増えてくると思います。
転向した人たちが活躍できる環境を、どう作っていくか。
この2つのテーマは、ぜひ皆さんと一緒に考え、盛り上がりたいところですね。

――イベントを通して、カインズさん、オイシックスさんに聞いてみたいことはありますか。

前島: カインズさんやオイシックスさんが、テクノロジーをどう活用し、開発やプロダクトの組織をどう作っているのか。やはり大いに興味があります。
会社の雰囲気も原点も全く違うので、一概に比較はできません。ただ、当社とは違う思想で開発組織をマネジメントされているのではないかと思います。
2社の考え方はぜひ勉強したいところです。

――最後に、イベントに対する意気込みをお願いします。

石橋: 私は技術やモノづくりが好きでこの業界に入り、ずっとエンジニアを続けてきました。個人としては、今はとても楽しいタイミングだと感じています。
これまでと比べても、やりたいと思ったことがすぐに実現できる環境が次々と整ってきました。
「このビッグウェーブに乗って楽しく仕事をしよう」という気持ちを参加者の皆さんと分かち合いながら、一緒にイベントを迎えられたらと思っています。

イベントのご案内

イベント名顧客の暮らしのために、開発組織の選んだ一歩とは 〜顧客価値を追い続ける開発者たちの実践知〜
日時2026年11月13日(金)19:00〜20:30(20:30より懇親会あり)
形式ハイブリッド開催
(ファインディ イベントスペース・オンライン配信)
matsuri technologies様の講演19:05〜19:20「AIで速くなった開発組織は、次に何を『貯める』のか―旅とすまいの現場で考える開発資本への再投資」
登壇matsuri technologies、カインズ、オイシックス
お申し込みhttps://jp.findy-team.io/events/life_tech_261113/

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