
多くの企業がオープンイノベーションに取り組む一方で、「実証実験までは進むものの、事業化には至らない」という声は少なくありません。
TOPPANが2017年から続けるオープンイノベーションプログラム「co-necto」も、当初は社内ビジネスコンテストとして始まりながら、9年の歳月をかけて実証型のスタイルへと姿を変えてきました。
なぜ実証型にこだわるのか。そして、PoCで終わらせないための共創をどのように設計しているのか。同プログラムを推進するTOPPAN株式会社マーケティングDX事業部の石本康久氏と、セキュアDX事業部で新規事業開発を担う田村友克氏に話を聞きました。
「ビジコンでは事業にならない」co-nectoが実証型に転換した理由

―まずは「co-necto」がどのようなプログラムなのか教えてください。
石本氏:2017年からスタートし、今年で10年目を迎えるプログラムです。当初の3年間は、社内のビジネスコンテストとして運営しており、優れた提案をしてくれたスタートアップ企業を表彰する形式でした。しかし4年目以降は、表彰で完結するコンテスト形式をやめ、パートナー企業とスタートアップが実際に手を組んで実証実験を行う、実証型のスタイルに転換しています。
その背景にあったのは「表彰をしても事業化できない」という気づきです。あるスタートアップ企業を表彰した際、社内から「事業としての成果はどう追求するのか」と問われたことがありました。しかし、表彰の先に事業化を進めるための仕組みは何も用意されておらず、結果として私たち自身がその企業の製品を売り歩く、場当たり的な対応をすることになってしまったんです。
―それは想定していた役割とは違う形になってしまった、ということですね。
石本氏:そうですね。当時の福岡でも、東京から少し遅れる形でオープンイノベーションや新規事業の流れが起こり始めていました。私たちは少し早くその動きを始めていたこともあり、周囲の企業からも「co-nectoに参加してオープンイノベーションを始めたい」と声をかけられるようになったんです。
ただ、私たちは長年クライアントの課題を解決して、事業を拡大してきた会社です。そこでパートナー企業が抱える課題をオープンイノベーションで解決する「実証型」にシフトするようになりました。
―実証型に転換してからは、スムーズに進んだのでしょうか。
石本氏:いえ、転換後もすぐに成果が出たわけではありません。実証型に変えてからの5年間も、思うような結果が出ない時期が続きました。社内には「営業活動の一環です」と説明していましたが、成果が見えにくい状態が続き、当時は本当に苦しかったですね。
実証型で成果を出すために見えてきた、共創の「型」
―5年間、思うように成果が出なかったとのことですが、何が転機になったのでしょうか。
石本氏:成果が出ない理由を考えたときに気づいたのが、評価指標のミスマッチでした。私たちが組んでいたパートナー企業の事業開発部門が手がけていたのは、いわゆる「飛び地」の新規事業領域です。成功率で言えば「千三つ」、1,000件のうち3件当たれば良いという世界です。
それにもかかわらず、私たちは単年度の売上という成果を求めてしまっていました。そもそも噛み合わない指標を追いかけていたのだと思います。
―そこからどのように改善していったのでしょうか。
石本氏:「飛び地」だけでなく、既存事業の延長線上にある領域にテーマを変えてもらいました。飛び地の領域では現場の声がなかなか届かず、課題の解像度も上がりにくいのですが、既存事業に近ければ現場の課題がより明確に見えてきます。
実際に、この転換以降は実証実験がスムーズに進むようになりました。西日本鉄道やJR九州など、既存事業に近い領域でご一緒する企業との取り組みでは、特に反応の良さを感じています。
―パートナー企業の課題を捉える上で、重要だと感じているポイントはありますか。
石本氏:パートナー企業の課題を、どれだけ解像度高くお聞きできるかが最初の壁になります。パートナー企業の多くはインフラ系などの大企業ですから、課題が個別企業のものというより、業界全体の課題として表れることが多いんです。
そのため、ある企業の課題にしっかりフィットするソリューションを作ることができれば、それは業界全体への展開にもつながっていきます。
―こうした実証実験を重ねる中で、TOPPANが果たすべき役割はどのように見えてきましたか。
石本氏:私たちが意識しているのは「品質保証の鎹(かすがい)」という役割です。セキュリティ面や契約面、法律面まで含めて品質を保証することで、クライアント企業が安心して採用できるソリューションに、スタートアップのサービスを昇華させる。そこに私たちの存在価値があると考えています。
―パートナー企業とスタートアップの間に立つ際、心がけていることはありますか。
石本氏:両者の視点の違いを理解した上で、緩衝材のような役割を果たすことを意識しています。スタートアップは目先の成果を強く求められる立場にありますが、私たちTOPPAN側は、もう少し中長期的な視点で物事を見ることができます。その両方の視点をうまく組み合わせることが、実証実験を前に進める鍵になると考えています。
セキュアDXとの共創が生んだ、9年越しの社内連携

―今年度から、田村さんのセキュアDX事業部の新規事業開発部門とco-nectoが一緒に取り組むようになったとお聞きしました。
石本氏:はい。これまでもco-nectoは社外向けの活動として価値を発信してきましたが、新規事業開発部門と本格的に連携できたことは、実は今回が初めてなんです。9年間、なかなか実現しなかったことなので、個人的にはとても感慨深いですね。
―それまで連携が難しかった理由は何だったのでしょうか。
田村氏:石本氏の組織はもともと九州エリアの営業組織です。これまでも連携を試みてはきましたが、実現に至らなかったんです。今回、ようやく「事業開発」という同じ目線でco-nectoに関われるようになりました。
―この連携によって、co-nectoの活動はどのように変化していくと考えていますか。
石本氏:パートナー企業・スタートアップ・私たちの3社による協業のモデルとしては、ある程度の「型」はできてきたと感じています。ただ、その型はまだ応用できる余地が大きく、今回の連携をきっかけに、対応できる領域がさらに広がっていくと見ています。エリアとしても、九州から関西へと拠点を広げてきましたが、今年度は全国展開を目指す重要な年だと考えています。
AI時代における事業開発に必要なのは「仮説を立てる」こと

―新規事業開発の現場で、AIの存在による変化を感じていますか。
田村氏:はい。近年大きく感じる変化の一つがAIの存在です。アイデアを考える間口は確実に広がったと感じています。以前は知識や経験がないと出てこなかったような発想も、今は誰でも手に入れられるようになりました。一方で、最終的にゴールに到達できる確率そのものは、それほど変わっていないというのが実感です。
―co-nectoへの応募にも、その影響は出ていますか。
石本氏:応募書類の傾向には変化を感じています。AIを使って作成された書類は、構成が整っている分、似たような内容になりやすいんですよね。アイデアの数自体は増えているのですが、その分、内容を吟味する難しさも増しています。
―そうした状況のなかで、新規事業を前に進める上で大切にしていることを聞かせてください。
田村氏:私は、アイデアよりも人を重視しています。アイデアは状況に応じて方向転換できますが、新規事業人財はなかなかいません。多少アイデアが粗くても、しっかりした人がいれば、そこからより良い形へ磨いていくことができると考えているからです。
ただ、人を見極めるにも、書面や一度の対話だけでは難しい面があります。そこで重要になるのが、一次情報をどう扱うかという点です。
―一次情報を扱う際に、心がけていることはありますか。
田村氏:一つの発言だけを根拠にしないことです。複数の方からお話を伺い、それぞれの発言の背景を比較しながら、本当に信頼できる情報かどうかを見極めるようにしています。表面的には異なる意見に見えても、背景を理解すると一貫性が見えてくることがあるんです。こうした検証も、結局は仮説があってこそ成立するものだと思っています。実はAIの活用も同じで、仮説を持っているかどうかで結果が大きく変わってきます。
―AIをどのように新規事業へ活用するのが効果的だとお考えですか。
田村氏:自社が持つアセットを正確に伝えた上で、壁打ち相手として使うのが良い使い方だと思っています。一方で「アイデアを教えてください」という形で丸投げしてしまうと、芯のある答えにはたどり着きにくい。あくまで仮説を持った上で、その検証や整理にAIを活用するという姿勢が大切だと考えています。
―最後に、co-nectoへの応募を考えている企業へメッセージをお願いします。
石本氏:パートナー企業の皆さまには、本気で取り組んでいただけることを期待しています。無償である以上、それ以上の価値を提供できるよう努めています。スタートアップの皆さまには、条件を気にせず、本当に実現したいビジョンをご応募いただければと思います。
書類は一つひとつ丁寧に拝見しています。今年度はビジネスデベロップメントの機能も加わり、対応できる幅が広がっていますので、ぜひ期待してください。
「Findy Insights」について
田村氏や石本氏が体現するような「一次情報を集め、検証し、意思決定する」高速サイクルを、自社の事業開発にも取り入れたいと考えるチームを支援するのが「Findy Insights」です。
「Findy Insights」は、仮説検証・事業開発を加速させるAIエージェントです。AIリサーチマネジメント・AIインサイトマネジメント・AIソリューションマネジメントの3機能を一気通貫で提供し、市場分析から顧客インタビュー分析、解決策の優先度設計までを自動化します。大手通信キャリアや製造業、ベンチャー企業のプロダクト開発部門など幅広い企業に活用されており、分析・資料作成の大幅削減と仮説検証サイクルの高速化を実現しています。

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