本記事のサマリ
導入前:解決したかった課題
属人的な進捗管理、部門ごとのルール差、アジャイル形骸化などにより、開発の予測不能性と改善停滞が発生。再現性ある開発体制の構築が急務だった。
Findy Team+を導入した理由
組織変革の鍵となる「可視化」を迅速に実現し、共通基準で現場の実態を把握するため。データを軸に改善対話を生む仕組みが必要だった。
導入の決め手
Four Keys を即時可視化し、外れ値検知と改善判断を日常化できる点。監視ではなく対話を促す可視化で、短い改善サイクルを確立できることが決め手に。
導入後:成果
インナーソース定着、PR滞留30%減、ベロシティ安定など実質的成果が顕在化。データ起点の対話文化が浸透し、オフショア含む全体で改善が加速した。
パナソニックコネクト株式会社は、研究開発本部を中心に内製化とアジャイル開発への転換を進めています。その中で、組織全体の開発力を底上げする仕組みとして活用しているのが「Findy Team+」です。本記事では、同社が直面していた課題と、その解決を後押しした具体的な取り組みを紹介します。
なぜ「ソフトウェア前提」への転換が必要だったのか
製造業の世界では長年、「完成品を前提としたハードウェア開発」が当たり前とされてきました。しかし、この前提のもとでは、研究成果が実際の製品やサービスとして社会に届くまでに長い時間を要し、その過程で進捗や課題の把握が属人的な経験や勘に頼りがちになるという構造的な問題が存在していました。
たとえアジャイルやDevOpsといった新しい手法を導入しても、文化やプロセスそのものが旧来のままでは十分に機能せず、取り組みが形だけにとどまってしまう 。多くの組織がこの「見えない壁」に直面していました。
さらに、部門ごとに開発プロセスやルールがばらついていたことも、大きな制約となっていました。標準化や資産の再利用が進まないままでは、知見が蓄積されず、改善のサイクルも十分に機能しません。結果として、急速に変化する市場環境の中で、スピードと柔軟性を両立した開発を実現することは困難な状況が続いていたのです。
こうした構造的な課題を踏まえ、パナソニックコネクト株式会社は2021年、米Blue Yonderの買収を転換点として、ソフトウェアを軸とした価値創出への舵を本格的に切りました。グローバル競争のただ中で存在感を高めていくためには、研究成果を迅速に社会へ届ける仕組みと、継続的な改善を前提とした開発体制の確立が不可欠だと判断したのです。
※同社の事業内容や組織体制の詳細はこちらの記事をご覧ください。
基盤構築において、なぜ「可視化」を重視するのか
新体制の出発点となったのが、「予測可能性の確保」「標準化と再利用の徹底」「可視化と是正の仕組み化」という三本柱でした。これらは、属人的な経験に依存していた開発を、再現性と継続性のあるプロセスへと転換するための基盤といえます。
まず取り組まれたのは、この三本柱を支える共通基盤の整備でした。GitHubやJiraといった開発ツールの統一に加え、命名規則やレビュー手順、ブランチ戦略などのルールを標準化することで、どのチームでも同じ前提で開発を進められる環境が整備されました。
なかでも「可視化」は特に重要な要素として位置づけられました。ルールやプロセスを整備するだけでは、現場の実態を把握できず、改善の優先度を適切に判断することはできません。どの工程で遅延が生じているのか、レビューやテストがどこで滞っているのかといった“現場の真実”を定量的に示すことが、次の一手を導き出すための前提となります。
さらに、可視化はエンジニアリング組織の内部改善にとどまらず、経営層やビジネスサイドとの対話の質にも大きな影響を与えます。進捗や課題を共通の指標で共有することで、属人的な説明や感覚的な判断に頼ることなく、データを基盤とした意思決定が可能になり、組織全体で改善を推進する力が高まります。
このように、可視化は単なる「現状把握の手段」ではなく、継続的な改善サイクルを駆動し、組織の成熟度を引き上げるための戦略的な基盤として機能しています。
可視化が果たす3つの役割
可視化は、単に現状を“見えるようにする”仕組みではありません。開発組織を継続的な改善へと導き、学習し続けるチームへと進化させるための「中核的な装置」として位置づけています。
その役割は、大きく分けて ①共通基準の確立、②ガバナンスの妥当性検証、③運用改善の共通言語化 の3つでした。
① 共通基準の確立
Four KeysやPR運用指標といった重要なメトリクスを、すべてのチームで同一定義・同一基準のもとに可視化することで、議論は「感覚的な印象」から「データと事実に基づく分析」へと進化します。
これにより、PR粒度の過大、アサインの偏り、SLA未達といった外れ値や滞留要因を即座に検知し、的確な是正アクションへとつなげることが可能になります。
② ガバナンスの妥当性検証
ブランチ保護設定、必須レビュー数、CIチェック基準といったルールが本当に機能しているのか――それを定量的な数値の変化として検証できる点も、可視化の大きな価値です。
これにより、改善は“思いつき”ではなく再現性を伴った運用変更として組織に定着し、継続的な品質向上の基盤が築かれます。
③ 共通言語としての運用改善
可視化された指標は、評価や責任追及の道具ではありません。チーム全員が同じ基準を共有し、運用を正すための「共通言語」として機能します。
このアプローチによって属人化が解消され、チームが自律的に学習サイクルを回せる状態が生まれます。数値を軸に対話が行われ、改善が再現可能な知として蓄積されていく――それこそが、可視化がもたらす最大の価値です。
Findy Team+ の役割と導入効果
こうした可視化の役割を実現するうえで、重要な役割を果たしているのが Findy Team+ です。自前で指標を収集・分析しようとすると、定義の維持や合意形成に膨大な工数がかかり、改善サイクルの立ち上がりが遅れてしまいます。
一方で Findy Team+ は、Four Keys や PR 運用指標を共通基準で即座に可視化し、外れ値の検出や滞留箇所の特定を日常のレビューに自然に組み込むことができます。その結果、
「共通の盤面で比較 → その場で是正を決定 → 次のスプリントに反映」
という短い改善サイクルが確立しました。
可視化は今や“状況を確認するための仕組み”ではなく、“改善を駆動する仕組み”へと進化しています。Findy Team+ は、その中心にある「改善のエンジン」として機能しているのです。
具体的な効果・変化
可視化と運用ルールの標準化が定着したことで、開発組織全体に複数の実質的な変化が生まれました。主な成果は、インナーソース化の定着、ベロシティの安定化、PR運用の改善の3点です。
【実際の効果】
- インナーソース化の定着:GitHubリポジトリは約4,000件、利用者は約1,500人、Copilot利用者は506人へ拡大し、部門横断での資産共有が実稼働レベルで根づいた。

- インナーソース化の定着:GitHubリポジトリは約4,000件、利用者は約1,500人、Copilot利用者は506人へ拡大し、部門横断での資産共有が実稼働レベルで根づいた。

- PR運用の改善:レビュー未実施や誤ったマージ手順などの逸脱をダッシュボードで可視化→是正サイクルが回ることでPR滞留が30%減少した。

文化面での変化
可視化の定着は、技術的な成果にとどまらず、組織の学び方や協働の在り方といった文化面にも大きな変化をもたらしています。同社では、Findy Team+ によってデータを起点とした建設的な対話が日常の中に組み込まれ、チーム間で改善知見を共有し合う「学習する文化」が形成されつつあります。
【実際の効果】
- 対話文化の定着:数値を根拠に議論が行われるようになり、改善の優先順位づけや再現性のある手法がチーム間で資産化。
- インナーソース推進:部門間の資産共有が進み、“車輪の再発明”を抑止。リポジトリやコードの横断利用が常態化。
- オフショア連携の進化:受託型から共創型スクラムへ転換。日次スクラムや同一プロセスで、国内外チームが一体運営。
- 形骸化防止の仕組み:外部アジャイルコーチを定期投入し、イベントが報告会に陥るのを防止。改善サイクルが持続。
- ガバナンス刷新:ハード中心の基準をクラウド/ソフトに適合させたTPL版品質・セキュリティ基準に改訂。現実的な段階適

課題とその克服
最大の壁となったのは、「文化的な抵抗」と「プロセスの形骸化」でした。
一部では資産共有への心理的ハードルが高く、インナーソース化が進みにくい状況がありました。スクラムイベントも形式化し、報告に終始する傾向が見られていました。
こうした課題に対しては、Findy Team+を“監視”ではなく“対話のきっかけ”として活用しています。
数値をもとに「どう改善するか」を議論する場を設け、外部アジャイルコーチの支援で学習と改善のサイクルを継続しています。
その結果、「資産を見せない文化」から「改善を共有する文化」へと変化し、アジャイル運営も本来の姿を取り戻しています。
今後の展望・期待
これまでの取り組みを基盤に、今後はAI活用を組み込んだ開発プロセスの進化に注力していきます。
次に、生成AIを活用した開発プロセスの標準化と知識共有の仕組みを構築し、組織全体で再現性のある形へ拡張していきます。
さらに、コード生成から要件定義、テスト自動化までをカバーする包括的なAI開発パイプラインの確立を目指しています。
完璧な仕組みを一度に構築するのではなく、AIを活用した継続的な改善サイクルを回しながら、段階的に成熟度を高めていく方針です。
最後に、さまざまなAIツールやベンダーと連携しながらアジャイルジャーニーを続け、柔軟かつ最適な形の開発文化を育てていきます。
開発生産性の改善は「一度整えれば終わり」というものではなく、常に測定し、対話し、改善し続ける営みだと思います。数値の可視化はあくまで出発点であり、それをチームの議論や学習につなげてこそ意味を持ちます。
もしこれを読んでいる皆さんが自社で取り組みを始めるのであれば、完璧な仕組みをいきなり求めるのではなく、小さく始めて継続的に改善することを意識していただきたいです。その積み重ねが、組織全体の強さにつながっていくはずです。
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