2026-06-26

プロンプトを磨いても解決しない。AIの精度を決める「コンテキスト」とは?

プロンプトを磨いても解決しない。AIの精度を決める「コンテキスト」とは?

目次

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CursorやClaude Codeを導入しても一般論的な修正しか返ってこない。多くのエンジニアがぶつかるこの壁の根本原因は、AIの性能不足ではありません。設計の背景や意思決定の経緯といった組織固有の「コンテキスト」を、AIが扱える形で持てていないことにあります。

コンテキストグラフ基盤「Synapse Connect」を開発するSolon株式会社と、判断の根拠と意思決定を蓄積・活用するプロダクト「Findy Context」を開発するファインディ株式会社。「AIがうちの会社のことをわかってくれない」問題の正体と、その解決策を聞きました。

沢井 拓:ファインディ株式会社 プロダクトマネジメント室 副室長|SansanにてEM・PdM・QAマネージャーを経験後、ファインディへ。「Findy Team+」、「Findy Context」Findy のプロダクトオーナーを務める。

湯山 修平:Solon株式会社 共同創業者・CTO|ITコンサル・金融機関での新規事業開発を経てSalesforceでソリューションアーキテクト。その後Solon株式会社を共同創業。

聞き手:西田 尚史(Solon株式会社 共同創業者・CEO) 

AIが出すコードは正しい。でも、うちのプロダクトには合わない。

── まず自己紹介をお願いします。

湯山: Solon株式会社でCTOをしております、湯山修平です。コンテキストグラフを活用したプロダクト「Synapse Connect」の開発と、関連するAIソリューションの提供を行っています。もともとは新卒でコンサルティング会社に入り、その後ITコンサルティングを経て、直近はセールスフォースでソリューションアーキテクトとして5年ほど働いていました。

沢井: ファインディでプロダクト開発に携わっています。エンジニア組織の生産性向上を支援するプロダクトを作る中で、AIとコンテキストの問題は日々直面しているテーマです。

── AIで出力したコードが「なんか違うな」と感じた経験はありますか?

沢井: たくさんあります。たとえば、エンジニアがAIに「このコードを直してくれ」と改修を頼む場面です。AIに渡すと、一般的に正しいやり方で綺麗に直してはくれるのですが、それが「自社のプロダクト」に合っていない。AIが知らないところで、社内には「なぜこういう構造になっているか」という固有の経緯や歴史があります。それを無視して直されると、かえって技術負債が増えてしまいます。

── ソースコードは「出来上がった結果」でしかないので、そこに至る経緯がすべて削ぎ落とされているわけですね。

沢井: だから単純に「今のコードに合わせてくれ」と言っても、AIにはその裏にある理由がわからない。底にある「なぜこういう構造になっているのか」の背景を説明してあげると、今度はちゃんとその作法に従って動いてくれるようになります。

湯山: 全く同じ体験があります。仕様をいくら細かく書いて渡しても、どこかしらに漏れが出てしまうんですよね。しかし、指示の出し方を変えて、「こういう背景で、こういうことをやりたい。それによって、こういう成果を得たい」と目的を伝えると、出力の精度がぐっと上がります。箇条書きで「これをやれ」とタスクだけを投げるよりも、「なぜやるのか」を伝えた方が、圧倒的に良い答えが返ってくるようになります。

── それは、AIへの「頼み方」のテクニックという話なのでしょうか?

湯山:頼み方でもありますが、もっと根本的な課題があると捉えています。

たとえば、「新しく入ってきた優秀な社員」を想像してみてください。仕事はできるけれど、まだ会社の事情を何も知らない状態です。その人にいきなり「このシステムを直して」とだけ頼んだら、なぜそうなっているかの背景を知らないまま動いてしまいます。

沢井:そう考えると、AIに「変な答えを返された」のは、AIのせいじゃなくて、背景を渡せていなかった私たちの側に原因があったとも言えますよね。

湯山:まさにそこなんです。私たちが「背景・経緯・理由」と呼んでいるもの、これこそが「コンテキスト」です。「AIへのオンボーディング(組織への受け入れ・適応プロセス)ができていなかった」と言い換えてもいいかもしれません。

── 「コンテキスト」。日本語にすると「文脈」ですね。

湯山:仕様書に書かれた「結論」ではなく、そこに至るまでの「なぜ」「どんな経緯で」「何を検討してやめたか」という一連の情報のことです。

沢井:たとえばPRD(プロダクト要件定義書)は、あくまで「その時点の決定」の記録に過ぎません。なぜその仕様になったのかという生きた情報は残らないため、これまではAIに「結論だけ」を渡していたことになります。

湯山: だからこそ「コンテキストのないAI」は、事情を知らずに現場に放り込まれた新入社員と同じ状態になってしまう。優秀なのに背景がわからないから、空回りしてしまう。

「Notionに全部書けばいいじゃん」ではダメな理由

── コンテキストが大事なら、「Notionに詳しく書き溜めれる」だけではダメなんでしょうか?

沢井: それは本当によく言われますね。100回くらい聞かれた気がします(笑)。実際、NotionやConfluenceに経緯まで残している組織もあります。

湯山: ただ、詳しく書き留めるだけでは2つの大きな問題が存在します。1つ目は「情報の風化」です。丁寧に書いたドキュメントも、時間が経てば状況が変わります。更新されないまま残った古い情報をAIが参照すると、むしろ深刻な誤答につながるのです。

2つ目は「探し方(検索)」の問題です。NotionにAIを連携させて検索しても、基本的にはキーワードが似ているものをまとめて拾ってくるだけです。情報の新旧や関連性の有無をAIが適切に判断できないまま、すべてをコンテキストとして読み込んでしまいます。

沢井:「古い意思決定の情報」って、AIにとってはノイズどころか毒になりますよね。それを正しい情報だと思って作業を進めてしまう。量が増えれば増えるほど、ノイズも増える。

── 約8割近くの人が「過去の意思決定の根拠に辿り着けない」と回答している(※当社調べ) のは非常に深刻ですね。

湯山:だから「Notionにちゃんと書く」だけでは解決ができないと言えます。情報の鮮度と、AIへの渡し方、この2つを同時に解決する仕組みが必要でそれが「コンテキストグラフ」だと考えています。

── 「コンテキストグラフ」、初めて聞く言葉です。できるだけ噛み砕いて教えていただけますか。

湯山: 図書館で調べ物をする際、いきなりすべての本を読み始める人はいませんよね。まず館内マップを見て、目当ての棚を探すはずです。

AIも同じで、大量の情報を丸投げして「全部読んで判断して」というアプローチには限界があります。コンテキストグラフは、いわばAIにとっての「館内マップ」。情報の配置とつながりを整理することで、必要な情報へ効率よくたどり着けるようになります。

沢井:「全部渡す」から「必要なものを的確に渡す」への転換ですね。

── 「グラフ」というのは、どういう意味ですか。

湯山: 棒グラフや円グラフではなく、「点と点を線でつないだネットワーク図」のことです。たとえば「AさんはNikeが好き」「NikeはAdidasと競合している」といった情報をそれぞれ「点」として置き、その関係性を「線」でつないでいくイメージです。

── Excelの表とは、データの持ち方が全然違いますね。

湯山: 表だと「Aさんの行の、好きなブランドの列にNike」と格納しますが、グラフ構造では「AさんとNikeの間に『好き』という関係性の線がある」という持ち方をします。

この違いが、AIが情報をたどる際に大きく効いてきます。「Nikeに関係する人や組織をすべて洗い出して」という問いにも、グラフ構造ならスムーズに応えられます。

沢井: 関係性そのものを保持しているから、芋づる式に情報を引っ張れるわけですね。コンテキストグラフは、このネットワークを、AIが文脈を理解しやすい形に特化して設計したものです。従来のナレッジ管理ツールが「情報の倉庫」だとしたら、コンテキストグラフは「情報の地図」と言えます。

── ナレッジグラフとはどう違うのですか?

※ナレッジグラフ:人・組織・概念などのエンティティと、それらの関係性をグラフ構造で表現したデータベース。GoogleやWikipediaなどが活用しており、「何が何に関係するか」という事実情報の整理に強い。

沢井: 結論と経緯の違いです。ナレッジグラフは「何が正しいか(結論)」を整理し、コンテキストグラフは「なぜそうなったか(経緯)」まで含めて整理するものです。

湯山:前者が「断片的な写真の集合」なら、後者は「360度の全景」。全景があるからこそ、個々の写真だけでは見えない周囲の状況まで正しく把握できます。両者は競合ではなく補完関係にあります。コンテキストグラフという「地図」で全体像を把握した上で、ナレッジグラフという「詳細な写真」を見に行くイメージです。 

コンテキストは「腐る」——鮮度を保つ仕組み

── コンテキストグラフを作ったとして、情報はどんどん古くなっていきますよね。

湯山: そこが一番の肝で、作って終わりでは意味がありません。古い情報の残ったグラフは、ない方よりかえって厄介なんです。

── どういうことでしょうか?

湯山:たとえば、半年前に撤回されたはずの古い方針をAIが「正しい前提」として拾ってしまい、そのまま作業を進めてしまうようなリスクです。間違った地図を渡されているのと同じですね。

沢井:「情報がない」より「間違った情報がある」方が、AI時代では後からの修正コストが大きくなってしまいます。だからこそ、グラフを作ることと同じくらい「鮮度を保つ仕組み」が不可欠です。

── とはいえ、ドキュメントの更新は人間がやる以上、どうしても続かなくなってしまいそうです。

湯山:おっしゃる通りです。「ドキュメントを整備しよう」という試みは、多くの組織が挑戦しては「発起人がいなくなった途端に頓挫する」を繰り返してきました。理由はシンプルで、面倒くさいからです(笑)。

沢井:人間にできる技じゃない、というのはもう歴史が証明しています。だからAIに任せるしかない、というのが私たちの結論です。AIが腐らせないように管理することが必要になっていきます。

── 具体的にどういう仕組みで更新しているんですか。

湯山:大きく2つの仕組みがあります。1つ目は「勝手に積み上がる仕組み」。業務でClaudeを使用し、AIが「重要な意思決定」と判断した内容を自動でSynapse Connectに記録します。2つ目は「自動で刈り取る仕組み」です。専用エージェントを常時稼働させ、表記揺れの補完や古い情報の整理をバックグラウンドで自動処理します。

沢井:海外ではその仕組みを「睡眠」に例えることがあるそうですね。

湯山: そうです。夜寝ている間に記憶が整理・定着される、というイメージで語られることが多い。私たちのイメージは「農場」に近く、生い茂るコンテキストの森を綺麗に整える「剪定師(エージェント)」をたくさん走らせている感覚です。人間任せにすると修正に気づけず、結局は古参メンバーに依存する属人化に戻ってしまうからです。

湯山:こちらは架空の組織の営業活動データをSynapseConnectに投入した際の実際のデータです。

投入時には同じ人物を指す言葉が別物として登録されてしまいます(佐々木が二か所に登録、決裁者である鈴木部長が別の言い回しで登録)。これは実際のビジネスの現場では避けられない現象であるため、SynapseConnectではこのようなコンテキストグラフで起きがちな不整合を自動で検知・修正するためのエージェントを複数動かしております

エンジニアだけの話ではない。日本企業特有の構造が生む「暗黙知の喪失」

── ここまでエンジニアの話が中心でしたが、コンテキストの問題はエンジニア以外にも広がっていますか。

沢井: 実は、このコンテキストを管理・共有する仕組みを社内に発表した際、開発メンバー以上にカスタマーサクセスや人事が「使いたい」と強い関心を示しました。

エンジニアはGitHubなどで情報が残る文化がありますが、他部門の情報はPowerPointやWord、Slackなどに散らばっています。解決手段がなかった分、彼らの方がより切実だったのです。

湯山: 当社のお客様にヒアリングしていても、「AIの提案は一般論ばかりで、次のアクションに繋がらない」という声を多く聞きます。「うちの事情」をAIが知らないからです。しかも、その事情を完璧に把握している人間が社内にいるとも限りません。

実際、ある法律事務所では、案件ごとの判断の経緯が個々の弁護士の頭の中にあり、その確認やキャッチアップに膨大な時間がかかっていました。

そこにコンテキストグラフで案件の文脈を蓄積・活用する仕組みを入れたところ、弁護士一人あたりの生産性がおよそ8倍に。これまでかかっていた作業時間が約8分の1になり、結果としてより多くのクライアントを担当できるようになっています。法務のように判断の背景がものを言う仕事ほど、効果が大きく出ます。 

湯山:エンジニアではない方でも普段の仕事にAIを活用している人も最近はよくいらっしゃいます。最初は自分の知識をプロンプト(GPTsやGem)の形に残す方が多いですが、次に社内にある膨大な過去事例や関連書籍をAIに理解してもらおうとして困っている方からお話を良く聞くことがあります。

── 特に日本企業において、この問題が深刻なのはなぜでしょうか。

湯山: ジョブローテーションが一因です。数年で人が入れ替わるため、組織固有の「事情」が失われやすい構造にあります。引き継ぎだけで暗黙知をすべて伝えるのは不可能だからです。これまでは現場の頑張りや長期在籍メンバーの記憶に頼ってきましたが、AI時代になり、その属人化の限界が露呈しています。

沢井: ベテラン層の大量退職も深刻です。長年の経験に基づく「なぜそうするのか」という暗黙知が、形式知化されないまま失われつつあります。海外のAIツールをそのまま導入してもうまく機能しにくいのは、こうした日本企業の実態があるからです。

── 「気が利く人が仕事できる」という日本の文化とも関係がありそうですね。

湯山: まさにそこです。日本では「空気を読んで動く」働き方が評価されますが、AIは見えている情報しか処理できません。暗黙知を察する力がないからです。

そのため、AIに「気を利かせてもらう」には、組織の全体像(コンテキスト)を可視化して見せてあげる必要があります。

沢井: 前提条件をすべて言語化する欧米文化はAIと相性が良いですが、言語化されない部分に価値を置いてきた日本は逆です。そのギャップを埋め、暗黙知を構造化して「気が利くAI」を実現するのが、コンテキストグラフの役割です。

「AIが働きやすい会社」が勝つ時代へ

── AIのモデル自体が急速に賢くなっている中、コンテキストの重要性はどのように変わっていくのでしょうか。

湯山: むしろ重要性はさらに増していくと考えています。AIモデルはもはや人間を凌駕する部分も多く、どの企業でも同じ最高性能のモデルにアクセスできる時代になりました。

──つまり、モデル自体の賢さは差別化要因にならなくなっているわけですね。

湯山: 差がつくのは「その道具をどう使いこなせるか」。自社のコンテキストをAIに正しく渡せている組織とそうでない組織では、同じモデルを使っていても出力の質に圧倒的な差が生まれます。

沢井: 「AIが働きやすい環境を作れているか」が、これからの企業の競争力の源泉になります。まさにその土台となるインフラこそが、コンテキストグラフです。

── コンテキストが整備された組織では、具体的にどのような違いが生まれますか。

沢井: 最も分かりやすいのは意思決定のスピードです。AIが自社の背景を把握していれば、一般論ではなく「自社に即した最適な回答」が最初から返ってきます。AIとの無駄なやり取りが減り、物事がスピーディーに進行します。仮に軌道修正が必要な場合でも、早い段階で気づけますね。

湯山: 早く試行錯誤できるため、正解へ到達する確率が上がります。その結果、AI運用のコスト自体も下がっていきます。

沢井: また、新入メンバーのオンボーディング(受け入れプロセス)も劇的に変わります。これまでは古参メンバーが属人的に抱えていた会社の事情や経緯がグラフに蓄積されるため、新人がAIに「なぜこの設計になっているの?」と聞くだけで、正しい背景が返ってくる状態を作れます。

──組織の記憶が「人」ではなく「仕組み」として残るわけですね。

湯山: 「この人がいなくなったら困る」という属人化の問題が構造的に解消されること、これが最大の変革です。

業務フローを「AI前提」で再設計するインフラへ

── 組織の働き方そのものも、次のフェーズへ進みそうですね。

沢井: 大きく変わります。これからは、人間がリアルタイムで指示を出すだけでなく、裏側で自律的に動く「AIエージェント」の活用が当たり前になります。そうなると、今の業務にAIを後付けするのではなく、業務フロー自体を「AIがいる前提」で再設計する必要が出てきます。

エージェントが自律して正しい判断を下すためには、組織の文脈を理解している必要があります。そのためのインフラがコンテキストグラフです。

湯山: 個人レベルで「ChatGPTに背景を教えて自分好みに育てる」という体験をしたことがある方は多いと思います。あれを組織全体でスケールさせるイメージです。「このAIはうちの会社のことをすべて分かっている」という状態を、組織の強力な資産として構築していく時代が始まっています。

── 最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

沢井:「AIに一般論しか返ってこない」という問題で困っている組織は、今この瞬間にも無数にある。その問題の根っこにあるのがコンテキストの欠如だということが、少しでも伝わればと思っています。

Findy Contextは、日々の判断や議論の根拠を蓄積し、次の意思決定につなげるプロダクトです。コンテキストレイヤーと組み合わせることで、「なぜそう決めたか」が組織の資産として残り続ける状態を作れます。まずは今使ってくださっているお客様と一緒に、答えを作っていきたいです。

湯山:コンテキストグラフは使えば使うほど蓄積されていくので、始めるなら早い方がいい。でもそれよりも伝えたいのは、「AIに変な答えを返された」という体験は、AIのせいじゃないということです。背景を渡せていなかった私たちの側に原因があった。その認識が変わるだけで、AIとの向き合い方が大きく変わると思っています。Synapse Connectは、その「背景」を組織の資産として蓄積・管理するための基盤です。導入に興味のある方はぜひご連絡ください。

判断の根拠と意思決定を蓄積・活用するプロダクト「Findy Context」の詳細はこちら

https://go.jp.findy-team.io/l/1092412/2026-04-06/c46rwx

AIに組織の記憶を渡すプロダクト「SynapseConnect」の詳細はこちら

https://solon.co.jp/

AIソリューション事業・プロダクト事業を展開するソロン株式会社の詳細はこちら

https://synapse.solon.co.jp/

CursorやClaude Codeを導入しても一般論的な修正しか返ってこない。多くのエンジニアがぶつかるこの壁の根本原因は、AIの性能不足ではありません。設計の背景や意思決定の経緯といった組織固有の「コンテキスト」を、AIが扱える形で持てていないことにあります。

コンテキストグラフ基盤「Synapse Connect」を開発するSolon株式会社と、判断の根拠と意思決定を蓄積・活用するプロダクト「Findy Context」を開発するファインディ株式会社。「AIがうちの会社のことをわかってくれない」問題の正体と、その解決策を聞きました。

沢井 拓:ファインディ株式会社 プロダクトマネジメント室 副室長|SansanにてEM・PdM・QAマネージャーを経験後、ファインディへ。「Findy Team+」、「Findy Context」Findy のプロダクトオーナーを務める。

湯山 修平:Solon株式会社 共同創業者・CTO|ITコンサル・金融機関での新規事業開発を経てSalesforceでソリューションアーキテクト。その後Solon株式会社を共同創業。

聞き手:西田 尚史(Solon株式会社 共同創業者・CEO) 

AIが出すコードは正しい。でも、うちのプロダクトには合わない。

── まず自己紹介をお願いします。

湯山: Solon株式会社でCTOをしております、湯山修平です。コンテキストグラフを活用したプロダクト「Synapse Connect」の開発と、関連するAIソリューションの提供を行っています。もともとは新卒でコンサルティング会社に入り、その後ITコンサルティングを経て、直近はセールスフォースでソリューションアーキテクトとして5年ほど働いていました。

沢井: ファインディでプロダクト開発に携わっています。エンジニア組織の生産性向上を支援するプロダクトを作る中で、AIとコンテキストの問題は日々直面しているテーマです。

── AIで出力したコードが「なんか違うな」と感じた経験はありますか?

沢井: たくさんあります。たとえば、エンジニアがAIに「このコードを直してくれ」と改修を頼む場面です。AIに渡すと、一般的に正しいやり方で綺麗に直してはくれるのですが、それが「自社のプロダクト」に合っていない。AIが知らないところで、社内には「なぜこういう構造になっているか」という固有の経緯や歴史があります。それを無視して直されると、かえって技術負債が増えてしまいます。

── ソースコードは「出来上がった結果」でしかないので、そこに至る経緯がすべて削ぎ落とされているわけですね。

沢井: だから単純に「今のコードに合わせてくれ」と言っても、AIにはその裏にある理由がわからない。底にある「なぜこういう構造になっているのか」の背景を説明してあげると、今度はちゃんとその作法に従って動いてくれるようになります。

湯山: 全く同じ体験があります。仕様をいくら細かく書いて渡しても、どこかしらに漏れが出てしまうんですよね。しかし、指示の出し方を変えて、「こういう背景で、こういうことをやりたい。それによって、こういう成果を得たい」と目的を伝えると、出力の精度がぐっと上がります。箇条書きで「これをやれ」とタスクだけを投げるよりも、「なぜやるのか」を伝えた方が、圧倒的に良い答えが返ってくるようになります。

── それは、AIへの「頼み方」のテクニックという話なのでしょうか?

湯山:頼み方でもありますが、もっと根本的な課題があると捉えています。

たとえば、「新しく入ってきた優秀な社員」を想像してみてください。仕事はできるけれど、まだ会社の事情を何も知らない状態です。その人にいきなり「このシステムを直して」とだけ頼んだら、なぜそうなっているかの背景を知らないまま動いてしまいます。

沢井:そう考えると、AIに「変な答えを返された」のは、AIのせいじゃなくて、背景を渡せていなかった私たちの側に原因があったとも言えますよね。

湯山:まさにそこなんです。私たちが「背景・経緯・理由」と呼んでいるもの、これこそが「コンテキスト」です。「AIへのオンボーディング(組織への受け入れ・適応プロセス)ができていなかった」と言い換えてもいいかもしれません。

── 「コンテキスト」。日本語にすると「文脈」ですね。

湯山:仕様書に書かれた「結論」ではなく、そこに至るまでの「なぜ」「どんな経緯で」「何を検討してやめたか」という一連の情報のことです。

沢井:たとえばPRD(プロダクト要件定義書)は、あくまで「その時点の決定」の記録に過ぎません。なぜその仕様になったのかという生きた情報は残らないため、これまではAIに「結論だけ」を渡していたことになります。

湯山: だからこそ「コンテキストのないAI」は、事情を知らずに現場に放り込まれた新入社員と同じ状態になってしまう。優秀なのに背景がわからないから、空回りしてしまう。

「Notionに全部書けばいいじゃん」ではダメな理由

── コンテキストが大事なら、「Notionに詳しく書き溜めれる」だけではダメなんでしょうか?

沢井: それは本当によく言われますね。100回くらい聞かれた気がします(笑)。実際、NotionやConfluenceに経緯まで残している組織もあります。

湯山: ただ、詳しく書き留めるだけでは2つの大きな問題が存在します。1つ目は「情報の風化」です。丁寧に書いたドキュメントも、時間が経てば状況が変わります。更新されないまま残った古い情報をAIが参照すると、むしろ深刻な誤答につながるのです。

2つ目は「探し方(検索)」の問題です。NotionにAIを連携させて検索しても、基本的にはキーワードが似ているものをまとめて拾ってくるだけです。情報の新旧や関連性の有無をAIが適切に判断できないまま、すべてをコンテキストとして読み込んでしまいます。

沢井:「古い意思決定の情報」って、AIにとってはノイズどころか毒になりますよね。それを正しい情報だと思って作業を進めてしまう。量が増えれば増えるほど、ノイズも増える。

── 約8割近くの人が「過去の意思決定の根拠に辿り着けない」と回答している(※当社調べ) のは非常に深刻ですね。

湯山:だから「Notionにちゃんと書く」だけでは解決ができないと言えます。情報の鮮度と、AIへの渡し方、この2つを同時に解決する仕組みが必要でそれが「コンテキストグラフ」だと考えています。

── 「コンテキストグラフ」、初めて聞く言葉です。できるだけ噛み砕いて教えていただけますか。

湯山: 図書館で調べ物をする際、いきなりすべての本を読み始める人はいませんよね。まず館内マップを見て、目当ての棚を探すはずです。

AIも同じで、大量の情報を丸投げして「全部読んで判断して」というアプローチには限界があります。コンテキストグラフは、いわばAIにとっての「館内マップ」。情報の配置とつながりを整理することで、必要な情報へ効率よくたどり着けるようになります。

沢井:「全部渡す」から「必要なものを的確に渡す」への転換ですね。

── 「グラフ」というのは、どういう意味ですか。

湯山: 棒グラフや円グラフではなく、「点と点を線でつないだネットワーク図」のことです。たとえば「AさんはNikeが好き」「NikeはAdidasと競合している」といった情報をそれぞれ「点」として置き、その関係性を「線」でつないでいくイメージです。

── Excelの表とは、データの持ち方が全然違いますね。

湯山: 表だと「Aさんの行の、好きなブランドの列にNike」と格納しますが、グラフ構造では「AさんとNikeの間に『好き』という関係性の線がある」という持ち方をします。

この違いが、AIが情報をたどる際に大きく効いてきます。「Nikeに関係する人や組織をすべて洗い出して」という問いにも、グラフ構造ならスムーズに応えられます。

沢井: 関係性そのものを保持しているから、芋づる式に情報を引っ張れるわけですね。コンテキストグラフは、このネットワークを、AIが文脈を理解しやすい形に特化して設計したものです。従来のナレッジ管理ツールが「情報の倉庫」だとしたら、コンテキストグラフは「情報の地図」と言えます。

── ナレッジグラフとはどう違うのですか?

※ナレッジグラフ:人・組織・概念などのエンティティと、それらの関係性をグラフ構造で表現したデータベース。GoogleやWikipediaなどが活用しており、「何が何に関係するか」という事実情報の整理に強い。

沢井: 結論と経緯の違いです。ナレッジグラフは「何が正しいか(結論)」を整理し、コンテキストグラフは「なぜそうなったか(経緯)」まで含めて整理するものです。

湯山:前者が「断片的な写真の集合」なら、後者は「360度の全景」。全景があるからこそ、個々の写真だけでは見えない周囲の状況まで正しく把握できます。両者は競合ではなく補完関係にあります。コンテキストグラフという「地図」で全体像を把握した上で、ナレッジグラフという「詳細な写真」を見に行くイメージです。 

コンテキストは「腐る」——鮮度を保つ仕組み

── コンテキストグラフを作ったとして、情報はどんどん古くなっていきますよね。

湯山: そこが一番の肝で、作って終わりでは意味がありません。古い情報の残ったグラフは、ない方よりかえって厄介なんです。

── どういうことでしょうか?

湯山:たとえば、半年前に撤回されたはずの古い方針をAIが「正しい前提」として拾ってしまい、そのまま作業を進めてしまうようなリスクです。間違った地図を渡されているのと同じですね。

沢井:「情報がない」より「間違った情報がある」方が、AI時代では後からの修正コストが大きくなってしまいます。だからこそ、グラフを作ることと同じくらい「鮮度を保つ仕組み」が不可欠です。

── とはいえ、ドキュメントの更新は人間がやる以上、どうしても続かなくなってしまいそうです。

湯山:おっしゃる通りです。「ドキュメントを整備しよう」という試みは、多くの組織が挑戦しては「発起人がいなくなった途端に頓挫する」を繰り返してきました。理由はシンプルで、面倒くさいからです(笑)。

沢井:人間にできる技じゃない、というのはもう歴史が証明しています。だからAIに任せるしかない、というのが私たちの結論です。AIが腐らせないように管理することが必要になっていきます。

── 具体的にどういう仕組みで更新しているんですか。

湯山:大きく2つの仕組みがあります。1つ目は「勝手に積み上がる仕組み」。業務でClaudeを使用し、AIが「重要な意思決定」と判断した内容を自動でSynapse Connectに記録します。2つ目は「自動で刈り取る仕組み」です。専用エージェントを常時稼働させ、表記揺れの補完や古い情報の整理をバックグラウンドで自動処理します。

沢井:海外ではその仕組みを「睡眠」に例えることがあるそうですね。

湯山: そうです。夜寝ている間に記憶が整理・定着される、というイメージで語られることが多い。私たちのイメージは「農場」に近く、生い茂るコンテキストの森を綺麗に整える「剪定師(エージェント)」をたくさん走らせている感覚です。人間任せにすると修正に気づけず、結局は古参メンバーに依存する属人化に戻ってしまうからです。

湯山:こちらは架空の組織の営業活動データをSynapseConnectに投入した際の実際のデータです。

投入時には同じ人物を指す言葉が別物として登録されてしまいます(佐々木が二か所に登録、決裁者である鈴木部長が別の言い回しで登録)。これは実際のビジネスの現場では避けられない現象であるため、SynapseConnectではこのようなコンテキストグラフで起きがちな不整合を自動で検知・修正するためのエージェントを複数動かしております

エンジニアだけの話ではない。日本企業特有の構造が生む「暗黙知の喪失」

── ここまでエンジニアの話が中心でしたが、コンテキストの問題はエンジニア以外にも広がっていますか。

沢井: 実は、このコンテキストを管理・共有する仕組みを社内に発表した際、開発メンバー以上にカスタマーサクセスや人事が「使いたい」と強い関心を示しました。

エンジニアはGitHubなどで情報が残る文化がありますが、他部門の情報はPowerPointやWord、Slackなどに散らばっています。解決手段がなかった分、彼らの方がより切実だったのです。

湯山: 当社のお客様にヒアリングしていても、「AIの提案は一般論ばかりで、次のアクションに繋がらない」という声を多く聞きます。「うちの事情」をAIが知らないからです。しかも、その事情を完璧に把握している人間が社内にいるとも限りません。

実際、ある法律事務所では、案件ごとの判断の経緯が個々の弁護士の頭の中にあり、その確認やキャッチアップに膨大な時間がかかっていました。

そこにコンテキストグラフで案件の文脈を蓄積・活用する仕組みを入れたところ、弁護士一人あたりの生産性がおよそ8倍に。これまでかかっていた作業時間が約8分の1になり、結果としてより多くのクライアントを担当できるようになっています。法務のように判断の背景がものを言う仕事ほど、効果が大きく出ます。 

湯山:エンジニアではない方でも普段の仕事にAIを活用している人も最近はよくいらっしゃいます。最初は自分の知識をプロンプト(GPTsやGem)の形に残す方が多いですが、次に社内にある膨大な過去事例や関連書籍をAIに理解してもらおうとして困っている方からお話を良く聞くことがあります。

── 特に日本企業において、この問題が深刻なのはなぜでしょうか。

湯山: ジョブローテーションが一因です。数年で人が入れ替わるため、組織固有の「事情」が失われやすい構造にあります。引き継ぎだけで暗黙知をすべて伝えるのは不可能だからです。これまでは現場の頑張りや長期在籍メンバーの記憶に頼ってきましたが、AI時代になり、その属人化の限界が露呈しています。

沢井: ベテラン層の大量退職も深刻です。長年の経験に基づく「なぜそうするのか」という暗黙知が、形式知化されないまま失われつつあります。海外のAIツールをそのまま導入してもうまく機能しにくいのは、こうした日本企業の実態があるからです。

── 「気が利く人が仕事できる」という日本の文化とも関係がありそうですね。

湯山: まさにそこです。日本では「空気を読んで動く」働き方が評価されますが、AIは見えている情報しか処理できません。暗黙知を察する力がないからです。

そのため、AIに「気を利かせてもらう」には、組織の全体像(コンテキスト)を可視化して見せてあげる必要があります。

沢井: 前提条件をすべて言語化する欧米文化はAIと相性が良いですが、言語化されない部分に価値を置いてきた日本は逆です。そのギャップを埋め、暗黙知を構造化して「気が利くAI」を実現するのが、コンテキストグラフの役割です。

「AIが働きやすい会社」が勝つ時代へ

── AIのモデル自体が急速に賢くなっている中、コンテキストの重要性はどのように変わっていくのでしょうか。

湯山: むしろ重要性はさらに増していくと考えています。AIモデルはもはや人間を凌駕する部分も多く、どの企業でも同じ最高性能のモデルにアクセスできる時代になりました。

──つまり、モデル自体の賢さは差別化要因にならなくなっているわけですね。

湯山: 差がつくのは「その道具をどう使いこなせるか」。自社のコンテキストをAIに正しく渡せている組織とそうでない組織では、同じモデルを使っていても出力の質に圧倒的な差が生まれます。

沢井: 「AIが働きやすい環境を作れているか」が、これからの企業の競争力の源泉になります。まさにその土台となるインフラこそが、コンテキストグラフです。

── コンテキストが整備された組織では、具体的にどのような違いが生まれますか。

沢井: 最も分かりやすいのは意思決定のスピードです。AIが自社の背景を把握していれば、一般論ではなく「自社に即した最適な回答」が最初から返ってきます。AIとの無駄なやり取りが減り、物事がスピーディーに進行します。仮に軌道修正が必要な場合でも、早い段階で気づけますね。

湯山: 早く試行錯誤できるため、正解へ到達する確率が上がります。その結果、AI運用のコスト自体も下がっていきます。

沢井: また、新入メンバーのオンボーディング(受け入れプロセス)も劇的に変わります。これまでは古参メンバーが属人的に抱えていた会社の事情や経緯がグラフに蓄積されるため、新人がAIに「なぜこの設計になっているの?」と聞くだけで、正しい背景が返ってくる状態を作れます。

──組織の記憶が「人」ではなく「仕組み」として残るわけですね。

湯山: 「この人がいなくなったら困る」という属人化の問題が構造的に解消されること、これが最大の変革です。

業務フローを「AI前提」で再設計するインフラへ

── 組織の働き方そのものも、次のフェーズへ進みそうですね。

沢井: 大きく変わります。これからは、人間がリアルタイムで指示を出すだけでなく、裏側で自律的に動く「AIエージェント」の活用が当たり前になります。そうなると、今の業務にAIを後付けするのではなく、業務フロー自体を「AIがいる前提」で再設計する必要が出てきます。

エージェントが自律して正しい判断を下すためには、組織の文脈を理解している必要があります。そのためのインフラがコンテキストグラフです。

湯山: 個人レベルで「ChatGPTに背景を教えて自分好みに育てる」という体験をしたことがある方は多いと思います。あれを組織全体でスケールさせるイメージです。「このAIはうちの会社のことをすべて分かっている」という状態を、組織の強力な資産として構築していく時代が始まっています。

── 最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

沢井:「AIに一般論しか返ってこない」という問題で困っている組織は、今この瞬間にも無数にある。その問題の根っこにあるのがコンテキストの欠如だということが、少しでも伝わればと思っています。

Findy Contextは、日々の判断や議論の根拠を蓄積し、次の意思決定につなげるプロダクトです。コンテキストレイヤーと組み合わせることで、「なぜそう決めたか」が組織の資産として残り続ける状態を作れます。まずは今使ってくださっているお客様と一緒に、答えを作っていきたいです。

湯山:コンテキストグラフは使えば使うほど蓄積されていくので、始めるなら早い方がいい。でもそれよりも伝えたいのは、「AIに変な答えを返された」という体験は、AIのせいじゃないということです。背景を渡せていなかった私たちの側に原因があった。その認識が変わるだけで、AIとの向き合い方が大きく変わると思っています。Synapse Connectは、その「背景」を組織の資産として蓄積・管理するための基盤です。導入に興味のある方はぜひご連絡ください。

判断の根拠と意思決定を蓄積・活用するプロダクト「Findy Context」の詳細はこちら

https://go.jp.findy-team.io/l/1092412/2026-04-06/c46rwx

AIに組織の記憶を渡すプロダクト「SynapseConnect」の詳細はこちら

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AIソリューション事業・プロダクト事業を展開するソロン株式会社の詳細はこちら

https://synapse.solon.co.jp/

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プロンプトを磨いても解決しない。AIの精度を決める「コンテキスト」とは?

CursorやClaude Codeを導入しても一般論的な修正しか返ってこない。多くのエンジニアがぶつかるこの壁の根本原因は、AIの性能不足ではありません。設計の背景や意思決定の経緯といった組織固有の「コンテキスト」を、AIが扱える形で持てていないことにあります。

コンテキストグラフ基盤「Synapse Connect」を開発するSolon株式会社と、判断の根拠と意思決定を蓄積・活用するプロダクト「Findy Context」を開発するファインディ株式会社。「AIがうちの会社のことをわかってくれない」問題の正体と、その解決策を聞きました。

沢井 拓:ファインディ株式会社 プロダクトマネジメント室 副室長|SansanにてEM・PdM・QAマネージャーを経験後、ファインディへ。「Findy Team+」、「Findy Context」Findy のプロダクトオーナーを務める。

湯山 修平:Solon株式会社 共同創業者・CTO|ITコンサル・金融機関での新規事業開発を経てSalesforceでソリューションアーキテクト。その後Solon株式会社を共同創業。

聞き手:西田 尚史(Solon株式会社 共同創業者・CEO) 

AIが出すコードは正しい。でも、うちのプロダクトには合わない。

── まず自己紹介をお願いします。

湯山: Solon株式会社でCTOをしております、湯山修平です。コンテキストグラフを活用したプロダクト「Synapse Connect」の開発と、関連するAIソリューションの提供を行っています。もともとは新卒でコンサルティング会社に入り、その後ITコンサルティングを経て、直近はセールスフォースでソリューションアーキテクトとして5年ほど働いていました。

沢井: ファインディでプロダクト開発に携わっています。エンジニア組織の生産性向上を支援するプロダクトを作る中で、AIとコンテキストの問題は日々直面しているテーマです。

── AIで出力したコードが「なんか違うな」と感じた経験はありますか?

沢井: たくさんあります。たとえば、エンジニアがAIに「このコードを直してくれ」と改修を頼む場面です。AIに渡すと、一般的に正しいやり方で綺麗に直してはくれるのですが、それが「自社のプロダクト」に合っていない。AIが知らないところで、社内には「なぜこういう構造になっているか」という固有の経緯や歴史があります。それを無視して直されると、かえって技術負債が増えてしまいます。

── ソースコードは「出来上がった結果」でしかないので、そこに至る経緯がすべて削ぎ落とされているわけですね。

沢井: だから単純に「今のコードに合わせてくれ」と言っても、AIにはその裏にある理由がわからない。底にある「なぜこういう構造になっているのか」の背景を説明してあげると、今度はちゃんとその作法に従って動いてくれるようになります。

湯山: 全く同じ体験があります。仕様をいくら細かく書いて渡しても、どこかしらに漏れが出てしまうんですよね。しかし、指示の出し方を変えて、「こういう背景で、こういうことをやりたい。それによって、こういう成果を得たい」と目的を伝えると、出力の精度がぐっと上がります。箇条書きで「これをやれ」とタスクだけを投げるよりも、「なぜやるのか」を伝えた方が、圧倒的に良い答えが返ってくるようになります。

── それは、AIへの「頼み方」のテクニックという話なのでしょうか?

湯山:頼み方でもありますが、もっと根本的な課題があると捉えています。

たとえば、「新しく入ってきた優秀な社員」を想像してみてください。仕事はできるけれど、まだ会社の事情を何も知らない状態です。その人にいきなり「このシステムを直して」とだけ頼んだら、なぜそうなっているかの背景を知らないまま動いてしまいます。

沢井:そう考えると、AIに「変な答えを返された」のは、AIのせいじゃなくて、背景を渡せていなかった私たちの側に原因があったとも言えますよね。

湯山:まさにそこなんです。私たちが「背景・経緯・理由」と呼んでいるもの、これこそが「コンテキスト」です。「AIへのオンボーディング(組織への受け入れ・適応プロセス)ができていなかった」と言い換えてもいいかもしれません。

── 「コンテキスト」。日本語にすると「文脈」ですね。

湯山:仕様書に書かれた「結論」ではなく、そこに至るまでの「なぜ」「どんな経緯で」「何を検討してやめたか」という一連の情報のことです。

沢井:たとえばPRD(プロダクト要件定義書)は、あくまで「その時点の決定」の記録に過ぎません。なぜその仕様になったのかという生きた情報は残らないため、これまではAIに「結論だけ」を渡していたことになります。

湯山: だからこそ「コンテキストのないAI」は、事情を知らずに現場に放り込まれた新入社員と同じ状態になってしまう。優秀なのに背景がわからないから、空回りしてしまう。

「Notionに全部書けばいいじゃん」ではダメな理由

── コンテキストが大事なら、「Notionに詳しく書き溜めれる」だけではダメなんでしょうか?

沢井: それは本当によく言われますね。100回くらい聞かれた気がします(笑)。実際、NotionやConfluenceに経緯まで残している組織もあります。

湯山: ただ、詳しく書き留めるだけでは2つの大きな問題が存在します。1つ目は「情報の風化」です。丁寧に書いたドキュメントも、時間が経てば状況が変わります。更新されないまま残った古い情報をAIが参照すると、むしろ深刻な誤答につながるのです。

2つ目は「探し方(検索)」の問題です。NotionにAIを連携させて検索しても、基本的にはキーワードが似ているものをまとめて拾ってくるだけです。情報の新旧や関連性の有無をAIが適切に判断できないまま、すべてをコンテキストとして読み込んでしまいます。

沢井:「古い意思決定の情報」って、AIにとってはノイズどころか毒になりますよね。それを正しい情報だと思って作業を進めてしまう。量が増えれば増えるほど、ノイズも増える。

── 約8割近くの人が「過去の意思決定の根拠に辿り着けない」と回答している(※当社調べ) のは非常に深刻ですね。

湯山:だから「Notionにちゃんと書く」だけでは解決ができないと言えます。情報の鮮度と、AIへの渡し方、この2つを同時に解決する仕組みが必要でそれが「コンテキストグラフ」だと考えています。

── 「コンテキストグラフ」、初めて聞く言葉です。できるだけ噛み砕いて教えていただけますか。

湯山: 図書館で調べ物をする際、いきなりすべての本を読み始める人はいませんよね。まず館内マップを見て、目当ての棚を探すはずです。

AIも同じで、大量の情報を丸投げして「全部読んで判断して」というアプローチには限界があります。コンテキストグラフは、いわばAIにとっての「館内マップ」。情報の配置とつながりを整理することで、必要な情報へ効率よくたどり着けるようになります。

沢井:「全部渡す」から「必要なものを的確に渡す」への転換ですね。

── 「グラフ」というのは、どういう意味ですか。

湯山: 棒グラフや円グラフではなく、「点と点を線でつないだネットワーク図」のことです。たとえば「AさんはNikeが好き」「NikeはAdidasと競合している」といった情報をそれぞれ「点」として置き、その関係性を「線」でつないでいくイメージです。

── Excelの表とは、データの持ち方が全然違いますね。

湯山: 表だと「Aさんの行の、好きなブランドの列にNike」と格納しますが、グラフ構造では「AさんとNikeの間に『好き』という関係性の線がある」という持ち方をします。

この違いが、AIが情報をたどる際に大きく効いてきます。「Nikeに関係する人や組織をすべて洗い出して」という問いにも、グラフ構造ならスムーズに応えられます。

沢井: 関係性そのものを保持しているから、芋づる式に情報を引っ張れるわけですね。コンテキストグラフは、このネットワークを、AIが文脈を理解しやすい形に特化して設計したものです。従来のナレッジ管理ツールが「情報の倉庫」だとしたら、コンテキストグラフは「情報の地図」と言えます。

── ナレッジグラフとはどう違うのですか?

※ナレッジグラフ:人・組織・概念などのエンティティと、それらの関係性をグラフ構造で表現したデータベース。GoogleやWikipediaなどが活用しており、「何が何に関係するか」という事実情報の整理に強い。

沢井: 結論と経緯の違いです。ナレッジグラフは「何が正しいか(結論)」を整理し、コンテキストグラフは「なぜそうなったか(経緯)」まで含めて整理するものです。

湯山:前者が「断片的な写真の集合」なら、後者は「360度の全景」。全景があるからこそ、個々の写真だけでは見えない周囲の状況まで正しく把握できます。両者は競合ではなく補完関係にあります。コンテキストグラフという「地図」で全体像を把握した上で、ナレッジグラフという「詳細な写真」を見に行くイメージです。 

コンテキストは「腐る」——鮮度を保つ仕組み

── コンテキストグラフを作ったとして、情報はどんどん古くなっていきますよね。

湯山: そこが一番の肝で、作って終わりでは意味がありません。古い情報の残ったグラフは、ない方よりかえって厄介なんです。

── どういうことでしょうか?

湯山:たとえば、半年前に撤回されたはずの古い方針をAIが「正しい前提」として拾ってしまい、そのまま作業を進めてしまうようなリスクです。間違った地図を渡されているのと同じですね。

沢井:「情報がない」より「間違った情報がある」方が、AI時代では後からの修正コストが大きくなってしまいます。だからこそ、グラフを作ることと同じくらい「鮮度を保つ仕組み」が不可欠です。

── とはいえ、ドキュメントの更新は人間がやる以上、どうしても続かなくなってしまいそうです。

湯山:おっしゃる通りです。「ドキュメントを整備しよう」という試みは、多くの組織が挑戦しては「発起人がいなくなった途端に頓挫する」を繰り返してきました。理由はシンプルで、面倒くさいからです(笑)。

沢井:人間にできる技じゃない、というのはもう歴史が証明しています。だからAIに任せるしかない、というのが私たちの結論です。AIが腐らせないように管理することが必要になっていきます。

── 具体的にどういう仕組みで更新しているんですか。

湯山:大きく2つの仕組みがあります。1つ目は「勝手に積み上がる仕組み」。業務でClaudeを使用し、AIが「重要な意思決定」と判断した内容を自動でSynapse Connectに記録します。2つ目は「自動で刈り取る仕組み」です。専用エージェントを常時稼働させ、表記揺れの補完や古い情報の整理をバックグラウンドで自動処理します。

沢井:海外ではその仕組みを「睡眠」に例えることがあるそうですね。

湯山: そうです。夜寝ている間に記憶が整理・定着される、というイメージで語られることが多い。私たちのイメージは「農場」に近く、生い茂るコンテキストの森を綺麗に整える「剪定師(エージェント)」をたくさん走らせている感覚です。人間任せにすると修正に気づけず、結局は古参メンバーに依存する属人化に戻ってしまうからです。

湯山:こちらは架空の組織の営業活動データをSynapseConnectに投入した際の実際のデータです。

投入時には同じ人物を指す言葉が別物として登録されてしまいます(佐々木が二か所に登録、決裁者である鈴木部長が別の言い回しで登録)。これは実際のビジネスの現場では避けられない現象であるため、SynapseConnectではこのようなコンテキストグラフで起きがちな不整合を自動で検知・修正するためのエージェントを複数動かしております

エンジニアだけの話ではない。日本企業特有の構造が生む「暗黙知の喪失」

── ここまでエンジニアの話が中心でしたが、コンテキストの問題はエンジニア以外にも広がっていますか。

沢井: 実は、このコンテキストを管理・共有する仕組みを社内に発表した際、開発メンバー以上にカスタマーサクセスや人事が「使いたい」と強い関心を示しました。

エンジニアはGitHubなどで情報が残る文化がありますが、他部門の情報はPowerPointやWord、Slackなどに散らばっています。解決手段がなかった分、彼らの方がより切実だったのです。

湯山: 当社のお客様にヒアリングしていても、「AIの提案は一般論ばかりで、次のアクションに繋がらない」という声を多く聞きます。「うちの事情」をAIが知らないからです。しかも、その事情を完璧に把握している人間が社内にいるとも限りません。

実際、ある法律事務所では、案件ごとの判断の経緯が個々の弁護士の頭の中にあり、その確認やキャッチアップに膨大な時間がかかっていました。

そこにコンテキストグラフで案件の文脈を蓄積・活用する仕組みを入れたところ、弁護士一人あたりの生産性がおよそ8倍に。これまでかかっていた作業時間が約8分の1になり、結果としてより多くのクライアントを担当できるようになっています。法務のように判断の背景がものを言う仕事ほど、効果が大きく出ます。 

湯山:エンジニアではない方でも普段の仕事にAIを活用している人も最近はよくいらっしゃいます。最初は自分の知識をプロンプト(GPTsやGem)の形に残す方が多いですが、次に社内にある膨大な過去事例や関連書籍をAIに理解してもらおうとして困っている方からお話を良く聞くことがあります。

── 特に日本企業において、この問題が深刻なのはなぜでしょうか。

湯山: ジョブローテーションが一因です。数年で人が入れ替わるため、組織固有の「事情」が失われやすい構造にあります。引き継ぎだけで暗黙知をすべて伝えるのは不可能だからです。これまでは現場の頑張りや長期在籍メンバーの記憶に頼ってきましたが、AI時代になり、その属人化の限界が露呈しています。

沢井: ベテラン層の大量退職も深刻です。長年の経験に基づく「なぜそうするのか」という暗黙知が、形式知化されないまま失われつつあります。海外のAIツールをそのまま導入してもうまく機能しにくいのは、こうした日本企業の実態があるからです。

── 「気が利く人が仕事できる」という日本の文化とも関係がありそうですね。

湯山: まさにそこです。日本では「空気を読んで動く」働き方が評価されますが、AIは見えている情報しか処理できません。暗黙知を察する力がないからです。

そのため、AIに「気を利かせてもらう」には、組織の全体像(コンテキスト)を可視化して見せてあげる必要があります。

沢井: 前提条件をすべて言語化する欧米文化はAIと相性が良いですが、言語化されない部分に価値を置いてきた日本は逆です。そのギャップを埋め、暗黙知を構造化して「気が利くAI」を実現するのが、コンテキストグラフの役割です。

「AIが働きやすい会社」が勝つ時代へ

── AIのモデル自体が急速に賢くなっている中、コンテキストの重要性はどのように変わっていくのでしょうか。

湯山: むしろ重要性はさらに増していくと考えています。AIモデルはもはや人間を凌駕する部分も多く、どの企業でも同じ最高性能のモデルにアクセスできる時代になりました。

──つまり、モデル自体の賢さは差別化要因にならなくなっているわけですね。

湯山: 差がつくのは「その道具をどう使いこなせるか」。自社のコンテキストをAIに正しく渡せている組織とそうでない組織では、同じモデルを使っていても出力の質に圧倒的な差が生まれます。

沢井: 「AIが働きやすい環境を作れているか」が、これからの企業の競争力の源泉になります。まさにその土台となるインフラこそが、コンテキストグラフです。

── コンテキストが整備された組織では、具体的にどのような違いが生まれますか。

沢井: 最も分かりやすいのは意思決定のスピードです。AIが自社の背景を把握していれば、一般論ではなく「自社に即した最適な回答」が最初から返ってきます。AIとの無駄なやり取りが減り、物事がスピーディーに進行します。仮に軌道修正が必要な場合でも、早い段階で気づけますね。

湯山: 早く試行錯誤できるため、正解へ到達する確率が上がります。その結果、AI運用のコスト自体も下がっていきます。

沢井: また、新入メンバーのオンボーディング(受け入れプロセス)も劇的に変わります。これまでは古参メンバーが属人的に抱えていた会社の事情や経緯がグラフに蓄積されるため、新人がAIに「なぜこの設計になっているの?」と聞くだけで、正しい背景が返ってくる状態を作れます。

──組織の記憶が「人」ではなく「仕組み」として残るわけですね。

湯山: 「この人がいなくなったら困る」という属人化の問題が構造的に解消されること、これが最大の変革です。

業務フローを「AI前提」で再設計するインフラへ

── 組織の働き方そのものも、次のフェーズへ進みそうですね。

沢井: 大きく変わります。これからは、人間がリアルタイムで指示を出すだけでなく、裏側で自律的に動く「AIエージェント」の活用が当たり前になります。そうなると、今の業務にAIを後付けするのではなく、業務フロー自体を「AIがいる前提」で再設計する必要が出てきます。

エージェントが自律して正しい判断を下すためには、組織の文脈を理解している必要があります。そのためのインフラがコンテキストグラフです。

湯山: 個人レベルで「ChatGPTに背景を教えて自分好みに育てる」という体験をしたことがある方は多いと思います。あれを組織全体でスケールさせるイメージです。「このAIはうちの会社のことをすべて分かっている」という状態を、組織の強力な資産として構築していく時代が始まっています。

── 最後に、今後の展望と読者へのメッセージをお願いします。

沢井:「AIに一般論しか返ってこない」という問題で困っている組織は、今この瞬間にも無数にある。その問題の根っこにあるのがコンテキストの欠如だということが、少しでも伝わればと思っています。

Findy Contextは、日々の判断や議論の根拠を蓄積し、次の意思決定につなげるプロダクトです。コンテキストレイヤーと組み合わせることで、「なぜそう決めたか」が組織の資産として残り続ける状態を作れます。まずは今使ってくださっているお客様と一緒に、答えを作っていきたいです。

湯山:コンテキストグラフは使えば使うほど蓄積されていくので、始めるなら早い方がいい。でもそれよりも伝えたいのは、「AIに変な答えを返された」という体験は、AIのせいじゃないということです。背景を渡せていなかった私たちの側に原因があった。その認識が変わるだけで、AIとの向き合い方が大きく変わると思っています。Synapse Connectは、その「背景」を組織の資産として蓄積・管理するための基盤です。導入に興味のある方はぜひご連絡ください。

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