平均修復時間とは?インシデント対応力を数値で可視化
平均修復時間とは?インシデント対応力を数値で可視化

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開発組織の規模が拡大するにつれ、インシデント対応の遅れは深刻な問題となってきます。サービスの安定性を保ちながら開発スピードを維持する——多くのエンジニアリングマネージャーが向き合うこの課題に対し、組織の対応力を測る指標として、平均修復時間が有効です。
本記事では、平均修復時間の基本的な概念から、計測方法、効果的な改善アプローチまで、実践的に解説します。
平均修復時間の位置づけと重要性
平均修復時間は、DORA(DevOps Research and Assessments)が提唱するFour Keys(デプロイ頻度、変更リードタイム、変更失敗率、平均修復時間)の1つです。インシデントの発生から解決までの時間を測ることで、組織の対応力が客観的に見えてきます。DORAの調査では、高パフォーマンスな組織は平均修復時間を1時間未満に抑えている一方、低パフォーマンスな組織では1週間以上かかることも。この大きな差は、組織の運用プロセスの成熟度をそのまま反映しています。
2023年、DORAはこの指標をより実務的な形に更新し、「Failed deployment recovery time(失敗デプロイの復旧時間)」として再定義しました。デプロイメントの失敗から復旧までの時間に焦点を絞ることで、より具体的な改善活動につなげやすくなっています。
平均修復時間から見えてくるのは、技術的な対応力だけでなく、組織としての危機管理能力や、ユーザー体験への意識の高さです。ただし、この指標を単独で見るのではなく、Four Keysの他の指標とのバランスが重要です。例えばデプロイ頻度を上げつつ変更失敗率を抑え、問題発生時も素早く復旧できる状態を目指すことで、開発のスピードと品質の両立が見えてきます。
参考:Four Keysとは?組織の開発生産性を可視化できる4つの指標を解説
参考:デプロイ頻度とは?リリース頻度の測定と改善について解説
参考:変更失敗率とは?リリース品質の測定と管理について解説
平均修復時間の定義と意味合い
平均修復時間の定義
平均修復時間とは、サービスに問題が発生してから修復されるまでの時間の平均値を示す指標です。「修復」には、サービスの機能回復、性能の回復、ユーザー影響の解消など、様々な側面があります。単なる技術的な復旧にとどまらず、実際にユーザーがサービスを正常に利用できる状態に戻すことが重要です。
サービス全体が停止している場合は、まず基本機能の回復を最優先します。一方、特定機能のみの不具合や性能劣化の場合は、影響範囲を見極めながら、優先度に応じて段階的に対応を進めます。いずれの場合も、システムの復旧だけでなく、実際のユーザー体験の回復までを「修復完了」と考えます。
正確な計測には、組織内での明確な基準作りが欠かせません。障害の検知時点(監視システムのアラート?ユーザーからの報告?)、修復完了の判断基準(技術的な復旧?データの整合性確認まで?)、平均値の算出期間(週単位?月単位?)など、組織の状況に応じて適切に設定していきます。
平均修復時間の意味合い
平均修復時間がどのよう意味合いをもつかは、組織での役割・レイヤーで異なる意味を持ちます。
エンジニアにとっては、日々のインシデント対応力を映す鏡です。トラブルシューティングの速さや、チームの連携がどの程度うまくいっているか、改善施策が実際に効果を上げているかが見えてきます。
マネージャーは運用体制の成熟度を把握できます。オンコール体制は十分か、チーム間の連携は円滑か、必要なドキュメントは整っているか。数値の推移から、こうした運用面の課題が浮かび上がってきます。また、改善施策の効果や、新メンバーの教育状況も確認できます。
経営層にとっては、サービスの安定性や事業継続性を判断する材料となります。競合と比べた運用レベルの把握や、事業拡大に向けた体制強化の判断にも役立ちます。
実践的な計測と活用法
平均修復時間を効果的に活用していくには、まず正確な計測の仕組みが必要です。具体的には、次の2つのポイントに注目します。
1つ目は、問題の検知をいかに早くするか。サービスの状態を常時監視するモニタリングツールを導入し、異常を素早くキャッチできる体制を整えます。アラートの設定は細かすぎると対応しきれず、逆に大まかすぎると重要な問題を見逃す可能性があるため、適切な粒度で設定することが重要です。
2つ目は、インシデント対応の記録をいかに正確に残すか。対応開始から完了までの時間、具体的な対応内容、発生した問題点などを、インシデント管理システムにしっかりと記録します。これにより、後の分析や改善に活かせる有用なデータが蓄積されていきます。
そのうえで、特に注力すべきなのは月次や四半期での振り返りです。例えば「先月は障害対応に平均で3時間かかっていたが、今月は1時間に短縮された。これは監視項目の見直しと、よくある障害への対応手順書の整備が効果を上げている」といった具合に、数値の変化と施策の効果を紐付けて分析します。
よくある課題と解決アプローチ
平均修復時間の改善に取り組む中で、多くの組織が似たような課題に直面します。ここでは主な課題と、その具体的な解決策を見ていきます。
課題1:検知の遅れ
多くの組織では「ユーザーから問い合わせがあって初めて障害に気付く」という状況から始まります。これでは対応開始までに貴重な時間を失ってしまいます。
早期発見の仕組みは段階的に整えていきます。まずは基本的な死活監視から始めて、次にレスポンスタイムやエラー率の監視を追加。さらにビジネスメトリクス(売上、注文数など)の異常検知のように範囲を広げていきます。監視項目を増やすと同時に、アラートの基準も継続的に見直します。「嵐のような通知」や「誰も見なくなったアラート」は、かえって重要な問題の発見を遅らせる原因となります。
課題2:対応の遅れ
問題を検知できても、すぐに対応が始まらないケースも多く見られます。典型的なのは「担当者が不在」「手順が不明確」「権限がない」といった状況です。
この課題には、体制とプロセスの両面からアプローチします。まず、インシデントの重要度に応じたエスカレーションルートを明確にします。例えば「サービス全体の停止は即座にCTOまで報告」「特定機能の不具合は担当チームリーダーの判断」といった具合です。
さらに重要なのは、対応手順の整備です。過去に発生した障害の対応手順をドキュメント化し、新しいメンバーでも適切に対応できる状態にします。オンコール体制が必要なサービスでは、明確なローテーションと引き継ぎの仕組みも欠かせません。
課題3:根本解決が進まない
「同じような障害が繰り返し発生する」という状況は、多くの組織が経験します。その場しのぎの対応を繰り返すうちに、チーム全体の疲弊や士気の低下にもつながりかねません。
再発防止を確実に進めるには、インシデントごとの振り返りを徹底します。具体的には、
・障害報告書の作成:何が起きたのか、なぜ起きたのか、どう対応したのかを記録
・根本原因の分析:表面的な現象だけでなく、なぜその問題が発生したのかを深掘り
・再発防止策の実施:システム改善、監視の追加、手順の見直しなど具体的なアクション
・効果の確認:実施した対策が有効に機能しているか、定期的に確認
といったことを行いましょう。
特に重要なのは、この一連のプロセスを形骸化させないことです。振り返りで得られた気付きを、確実にアクションにつなげる習慣づけが大切です。
平均修復時間の改善アプローチ
これまでの課題と解決策を踏まえ、組織として取り組むべきポイントを3つの視点から見ていきます。
プロセスの最適化
障害対応は「検知→判断→対応→確認」という流れで進みます。この一連の流れの中で、特に時間がかかっている部分を見つけ、改善していきます。
まず重要なのは、検知から初動までの時間短縮です。アラートを受けた際の最初の対応者(ファーストレスポンダー)を明確に決め、障害の種類や影響度に応じた対応フローを整備します。頻発する障害については、半自動化された対応手順を用意しておくと、さらに時間を短縮できます。
予防的な取り組み
まず取り組むべきなのは、障害そのものを減らすことです。システムの性能分析と改善を定期的に行い、脆弱性を早期に発見して対策を打ちます。デプロイプロセスの自動化を進めることで人的ミスも削減できます。監視の仕組みも継続的に見直し、問題の予兆をより早く捉えられるようにしていきます。
同時に、障害発生時の対応力も高めていく必要があります。過去に発生した重大インシデントを題材にした対応訓練を実施したり、システムの耐障害性をテストしたりすることで、チームの対応力は着実に向上します。新機能のリリース時には必ず切り戻し手順を確認し、問題が起きた際の手順を関係者全員が把握できるようにします。
さらに、システム面での自動化も進めます。特定のプロセスが異常終了した際は自動で再起動するよう設定したり、負荷が集中した際は自動でスケールアウトする仕組みを整えたりします。こうした自動化により、人手での対応が必要なケースを最小限に抑えることができます。
組織的な取り組み
複数のチームが関わる大規模な障害では、チーム間の連携が鍵となります。情報共有の遅れや認識の食い違いは、対応の遅れに直結するためです。
効果的な連携を実現するには、まず情報共有の仕組みを整理することから始めます。インシデント発生時の連絡は単一のチャンネルに集約し、関係者全員が同じ情報を共有できるようにしましょう。また、定期的な振り返りの場を設けることで、各チームの知見や課題認識を互いに理解し合えます。過去の対応事例も、チーム間で共有できるナレッジとしてまとめていきます。
そして特に重要なのは、日頃からの関係づくりです。チーム横断での対応訓練を通じて、いざという時にスムーズに連携できる土台を作ります。メンバーには様々な役割を経験させる機会を意図的に設け、他チームとの一時的な人材交流も積極的に行います。そうすることで、組織全体の対応力は着実に高まっていきます。
このように、情報共有の仕組みづくりと、人を育てる取り組みを両輪で進めることで、チームを超えた強い連携体制が築けます。
まとめ:平均修復時間の改善で実現できること
平均修復時間の改善は、数値目標の達成以上の価値をもたらします。インシデント対応の迅速化がユーザー体験と信頼性の向上につながるのはもちろん、組織の対応力そのものを強化する機会にもなります。
特に事業の成長フェーズでは、サービスの安定性がより一層重要になってきます。単なる障害対応の迅速化だけでなく、チーム間の連携強化や、経営層との円滑なコミュニケーションにもつながっていきます。
改善に向けては、まず現状を正確に把握することから始めましょう。計測基盤を整え、対応プロセスを標準化し、定期的な振り返りを通じて地道に改善を重ねていく。一足飛びな改善を求めるのではなく、着実に対応力を高めていくことが、長期的な成功への近道となります。
平均修復時間は、開発組織の成熟度を映し出す鏡です。この指標を軸に、組織全体でインシデント対応力を磨いていくことで、より強固な開発体制を築いていけるはずです。
開発組織の規模が拡大するにつれ、インシデント対応の遅れは深刻な問題となってきます。サービスの安定性を保ちながら開発スピードを維持する——多くのエンジニアリングマネージャーが向き合うこの課題に対し、組織の対応力を測る指標として、平均修復時間が有効です。
本記事では、平均修復時間の基本的な概念から、計測方法、効果的な改善アプローチまで、実践的に解説します。
平均修復時間の位置づけと重要性
平均修復時間は、DORA(DevOps Research and Assessments)が提唱するFour Keys(デプロイ頻度、変更リードタイム、変更失敗率、平均修復時間)の1つです。インシデントの発生から解決までの時間を測ることで、組織の対応力が客観的に見えてきます。DORAの調査では、高パフォーマンスな組織は平均修復時間を1時間未満に抑えている一方、低パフォーマンスな組織では1週間以上かかることも。この大きな差は、組織の運用プロセスの成熟度をそのまま反映しています。
2023年、DORAはこの指標をより実務的な形に更新し、「Failed deployment recovery time(失敗デプロイの復旧時間)」として再定義しました。デプロイメントの失敗から復旧までの時間に焦点を絞ることで、より具体的な改善活動につなげやすくなっています。
平均修復時間から見えてくるのは、技術的な対応力だけでなく、組織としての危機管理能力や、ユーザー体験への意識の高さです。ただし、この指標を単独で見るのではなく、Four Keysの他の指標とのバランスが重要です。例えばデプロイ頻度を上げつつ変更失敗率を抑え、問題発生時も素早く復旧できる状態を目指すことで、開発のスピードと品質の両立が見えてきます。
参考:Four Keysとは?組織の開発生産性を可視化できる4つの指標を解説
参考:デプロイ頻度とは?リリース頻度の測定と改善について解説
参考:変更失敗率とは?リリース品質の測定と管理について解説
平均修復時間の定義と意味合い
平均修復時間の定義
平均修復時間とは、サービスに問題が発生してから修復されるまでの時間の平均値を示す指標です。「修復」には、サービスの機能回復、性能の回復、ユーザー影響の解消など、様々な側面があります。単なる技術的な復旧にとどまらず、実際にユーザーがサービスを正常に利用できる状態に戻すことが重要です。
サービス全体が停止している場合は、まず基本機能の回復を最優先します。一方、特定機能のみの不具合や性能劣化の場合は、影響範囲を見極めながら、優先度に応じて段階的に対応を進めます。いずれの場合も、システムの復旧だけでなく、実際のユーザー体験の回復までを「修復完了」と考えます。
正確な計測には、組織内での明確な基準作りが欠かせません。障害の検知時点(監視システムのアラート?ユーザーからの報告?)、修復完了の判断基準(技術的な復旧?データの整合性確認まで?)、平均値の算出期間(週単位?月単位?)など、組織の状況に応じて適切に設定していきます。
平均修復時間の意味合い
平均修復時間がどのよう意味合いをもつかは、組織での役割・レイヤーで異なる意味を持ちます。
エンジニアにとっては、日々のインシデント対応力を映す鏡です。トラブルシューティングの速さや、チームの連携がどの程度うまくいっているか、改善施策が実際に効果を上げているかが見えてきます。
マネージャーは運用体制の成熟度を把握できます。オンコール体制は十分か、チーム間の連携は円滑か、必要なドキュメントは整っているか。数値の推移から、こうした運用面の課題が浮かび上がってきます。また、改善施策の効果や、新メンバーの教育状況も確認できます。
経営層にとっては、サービスの安定性や事業継続性を判断する材料となります。競合と比べた運用レベルの把握や、事業拡大に向けた体制強化の判断にも役立ちます。
実践的な計測と活用法
平均修復時間を効果的に活用していくには、まず正確な計測の仕組みが必要です。具体的には、次の2つのポイントに注目します。
1つ目は、問題の検知をいかに早くするか。サービスの状態を常時監視するモニタリングツールを導入し、異常を素早くキャッチできる体制を整えます。アラートの設定は細かすぎると対応しきれず、逆に大まかすぎると重要な問題を見逃す可能性があるため、適切な粒度で設定することが重要です。
2つ目は、インシデント対応の記録をいかに正確に残すか。対応開始から完了までの時間、具体的な対応内容、発生した問題点などを、インシデント管理システムにしっかりと記録します。これにより、後の分析や改善に活かせる有用なデータが蓄積されていきます。
そのうえで、特に注力すべきなのは月次や四半期での振り返りです。例えば「先月は障害対応に平均で3時間かかっていたが、今月は1時間に短縮された。これは監視項目の見直しと、よくある障害への対応手順書の整備が効果を上げている」といった具合に、数値の変化と施策の効果を紐付けて分析します。
よくある課題と解決アプローチ
平均修復時間の改善に取り組む中で、多くの組織が似たような課題に直面します。ここでは主な課題と、その具体的な解決策を見ていきます。
課題1:検知の遅れ
多くの組織では「ユーザーから問い合わせがあって初めて障害に気付く」という状況から始まります。これでは対応開始までに貴重な時間を失ってしまいます。
早期発見の仕組みは段階的に整えていきます。まずは基本的な死活監視から始めて、次にレスポンスタイムやエラー率の監視を追加。さらにビジネスメトリクス(売上、注文数など)の異常検知のように範囲を広げていきます。監視項目を増やすと同時に、アラートの基準も継続的に見直します。「嵐のような通知」や「誰も見なくなったアラート」は、かえって重要な問題の発見を遅らせる原因となります。
課題2:対応の遅れ
問題を検知できても、すぐに対応が始まらないケースも多く見られます。典型的なのは「担当者が不在」「手順が不明確」「権限がない」といった状況です。
この課題には、体制とプロセスの両面からアプローチします。まず、インシデントの重要度に応じたエスカレーションルートを明確にします。例えば「サービス全体の停止は即座にCTOまで報告」「特定機能の不具合は担当チームリーダーの判断」といった具合です。
さらに重要なのは、対応手順の整備です。過去に発生した障害の対応手順をドキュメント化し、新しいメンバーでも適切に対応できる状態にします。オンコール体制が必要なサービスでは、明確なローテーションと引き継ぎの仕組みも欠かせません。
課題3:根本解決が進まない
「同じような障害が繰り返し発生する」という状況は、多くの組織が経験します。その場しのぎの対応を繰り返すうちに、チーム全体の疲弊や士気の低下にもつながりかねません。
再発防止を確実に進めるには、インシデントごとの振り返りを徹底します。具体的には、
・障害報告書の作成:何が起きたのか、なぜ起きたのか、どう対応したのかを記録
・根本原因の分析:表面的な現象だけでなく、なぜその問題が発生したのかを深掘り
・再発防止策の実施:システム改善、監視の追加、手順の見直しなど具体的なアクション
・効果の確認:実施した対策が有効に機能しているか、定期的に確認
といったことを行いましょう。
特に重要なのは、この一連のプロセスを形骸化させないことです。振り返りで得られた気付きを、確実にアクションにつなげる習慣づけが大切です。
平均修復時間の改善アプローチ
これまでの課題と解決策を踏まえ、組織として取り組むべきポイントを3つの視点から見ていきます。
プロセスの最適化
障害対応は「検知→判断→対応→確認」という流れで進みます。この一連の流れの中で、特に時間がかかっている部分を見つけ、改善していきます。
まず重要なのは、検知から初動までの時間短縮です。アラートを受けた際の最初の対応者(ファーストレスポンダー)を明確に決め、障害の種類や影響度に応じた対応フローを整備します。頻発する障害については、半自動化された対応手順を用意しておくと、さらに時間を短縮できます。
予防的な取り組み
まず取り組むべきなのは、障害そのものを減らすことです。システムの性能分析と改善を定期的に行い、脆弱性を早期に発見して対策を打ちます。デプロイプロセスの自動化を進めることで人的ミスも削減できます。監視の仕組みも継続的に見直し、問題の予兆をより早く捉えられるようにしていきます。
同時に、障害発生時の対応力も高めていく必要があります。過去に発生した重大インシデントを題材にした対応訓練を実施したり、システムの耐障害性をテストしたりすることで、チームの対応力は着実に向上します。新機能のリリース時には必ず切り戻し手順を確認し、問題が起きた際の手順を関係者全員が把握できるようにします。
さらに、システム面での自動化も進めます。特定のプロセスが異常終了した際は自動で再起動するよう設定したり、負荷が集中した際は自動でスケールアウトする仕組みを整えたりします。こうした自動化により、人手での対応が必要なケースを最小限に抑えることができます。
組織的な取り組み
複数のチームが関わる大規模な障害では、チーム間の連携が鍵となります。情報共有の遅れや認識の食い違いは、対応の遅れに直結するためです。
効果的な連携を実現するには、まず情報共有の仕組みを整理することから始めます。インシデント発生時の連絡は単一のチャンネルに集約し、関係者全員が同じ情報を共有できるようにしましょう。また、定期的な振り返りの場を設けることで、各チームの知見や課題認識を互いに理解し合えます。過去の対応事例も、チーム間で共有できるナレッジとしてまとめていきます。
そして特に重要なのは、日頃からの関係づくりです。チーム横断での対応訓練を通じて、いざという時にスムーズに連携できる土台を作ります。メンバーには様々な役割を経験させる機会を意図的に設け、他チームとの一時的な人材交流も積極的に行います。そうすることで、組織全体の対応力は着実に高まっていきます。
このように、情報共有の仕組みづくりと、人を育てる取り組みを両輪で進めることで、チームを超えた強い連携体制が築けます。
まとめ:平均修復時間の改善で実現できること
平均修復時間の改善は、数値目標の達成以上の価値をもたらします。インシデント対応の迅速化がユーザー体験と信頼性の向上につながるのはもちろん、組織の対応力そのものを強化する機会にもなります。
特に事業の成長フェーズでは、サービスの安定性がより一層重要になってきます。単なる障害対応の迅速化だけでなく、チーム間の連携強化や、経営層との円滑なコミュニケーションにもつながっていきます。
改善に向けては、まず現状を正確に把握することから始めましょう。計測基盤を整え、対応プロセスを標準化し、定期的な振り返りを通じて地道に改善を重ねていく。一足飛びな改善を求めるのではなく、着実に対応力を高めていくことが、長期的な成功への近道となります。
平均修復時間は、開発組織の成熟度を映し出す鏡です。この指標を軸に、組織全体でインシデント対応力を磨いていくことで、より強固な開発体制を築いていけるはずです。
平均修復時間とは?インシデント対応力を数値で可視化

開発組織の規模が拡大するにつれ、インシデント対応の遅れは深刻な問題となってきます。サービスの安定性を保ちながら開発スピードを維持する——多くのエンジニアリングマネージャーが向き合うこの課題に対し、組織の対応力を測る指標として、平均修復時間が有効です。
本記事では、平均修復時間の基本的な概念から、計測方法、効果的な改善アプローチまで、実践的に解説します。
平均修復時間の位置づけと重要性
平均修復時間は、DORA(DevOps Research and Assessments)が提唱するFour Keys(デプロイ頻度、変更リードタイム、変更失敗率、平均修復時間)の1つです。インシデントの発生から解決までの時間を測ることで、組織の対応力が客観的に見えてきます。DORAの調査では、高パフォーマンスな組織は平均修復時間を1時間未満に抑えている一方、低パフォーマンスな組織では1週間以上かかることも。この大きな差は、組織の運用プロセスの成熟度をそのまま反映しています。
2023年、DORAはこの指標をより実務的な形に更新し、「Failed deployment recovery time(失敗デプロイの復旧時間)」として再定義しました。デプロイメントの失敗から復旧までの時間に焦点を絞ることで、より具体的な改善活動につなげやすくなっています。
平均修復時間から見えてくるのは、技術的な対応力だけでなく、組織としての危機管理能力や、ユーザー体験への意識の高さです。ただし、この指標を単独で見るのではなく、Four Keysの他の指標とのバランスが重要です。例えばデプロイ頻度を上げつつ変更失敗率を抑え、問題発生時も素早く復旧できる状態を目指すことで、開発のスピードと品質の両立が見えてきます。
参考:Four Keysとは?組織の開発生産性を可視化できる4つの指標を解説
参考:デプロイ頻度とは?リリース頻度の測定と改善について解説
参考:変更失敗率とは?リリース品質の測定と管理について解説
平均修復時間の定義と意味合い
平均修復時間の定義
平均修復時間とは、サービスに問題が発生してから修復されるまでの時間の平均値を示す指標です。「修復」には、サービスの機能回復、性能の回復、ユーザー影響の解消など、様々な側面があります。単なる技術的な復旧にとどまらず、実際にユーザーがサービスを正常に利用できる状態に戻すことが重要です。
サービス全体が停止している場合は、まず基本機能の回復を最優先します。一方、特定機能のみの不具合や性能劣化の場合は、影響範囲を見極めながら、優先度に応じて段階的に対応を進めます。いずれの場合も、システムの復旧だけでなく、実際のユーザー体験の回復までを「修復完了」と考えます。
正確な計測には、組織内での明確な基準作りが欠かせません。障害の検知時点(監視システムのアラート?ユーザーからの報告?)、修復完了の判断基準(技術的な復旧?データの整合性確認まで?)、平均値の算出期間(週単位?月単位?)など、組織の状況に応じて適切に設定していきます。
平均修復時間の意味合い
平均修復時間がどのよう意味合いをもつかは、組織での役割・レイヤーで異なる意味を持ちます。
エンジニアにとっては、日々のインシデント対応力を映す鏡です。トラブルシューティングの速さや、チームの連携がどの程度うまくいっているか、改善施策が実際に効果を上げているかが見えてきます。
マネージャーは運用体制の成熟度を把握できます。オンコール体制は十分か、チーム間の連携は円滑か、必要なドキュメントは整っているか。数値の推移から、こうした運用面の課題が浮かび上がってきます。また、改善施策の効果や、新メンバーの教育状況も確認できます。
経営層にとっては、サービスの安定性や事業継続性を判断する材料となります。競合と比べた運用レベルの把握や、事業拡大に向けた体制強化の判断にも役立ちます。
実践的な計測と活用法
平均修復時間を効果的に活用していくには、まず正確な計測の仕組みが必要です。具体的には、次の2つのポイントに注目します。
1つ目は、問題の検知をいかに早くするか。サービスの状態を常時監視するモニタリングツールを導入し、異常を素早くキャッチできる体制を整えます。アラートの設定は細かすぎると対応しきれず、逆に大まかすぎると重要な問題を見逃す可能性があるため、適切な粒度で設定することが重要です。
2つ目は、インシデント対応の記録をいかに正確に残すか。対応開始から完了までの時間、具体的な対応内容、発生した問題点などを、インシデント管理システムにしっかりと記録します。これにより、後の分析や改善に活かせる有用なデータが蓄積されていきます。
そのうえで、特に注力すべきなのは月次や四半期での振り返りです。例えば「先月は障害対応に平均で3時間かかっていたが、今月は1時間に短縮された。これは監視項目の見直しと、よくある障害への対応手順書の整備が効果を上げている」といった具合に、数値の変化と施策の効果を紐付けて分析します。
よくある課題と解決アプローチ
平均修復時間の改善に取り組む中で、多くの組織が似たような課題に直面します。ここでは主な課題と、その具体的な解決策を見ていきます。
課題1:検知の遅れ
多くの組織では「ユーザーから問い合わせがあって初めて障害に気付く」という状況から始まります。これでは対応開始までに貴重な時間を失ってしまいます。
早期発見の仕組みは段階的に整えていきます。まずは基本的な死活監視から始めて、次にレスポンスタイムやエラー率の監視を追加。さらにビジネスメトリクス(売上、注文数など)の異常検知のように範囲を広げていきます。監視項目を増やすと同時に、アラートの基準も継続的に見直します。「嵐のような通知」や「誰も見なくなったアラート」は、かえって重要な問題の発見を遅らせる原因となります。
課題2:対応の遅れ
問題を検知できても、すぐに対応が始まらないケースも多く見られます。典型的なのは「担当者が不在」「手順が不明確」「権限がない」といった状況です。
この課題には、体制とプロセスの両面からアプローチします。まず、インシデントの重要度に応じたエスカレーションルートを明確にします。例えば「サービス全体の停止は即座にCTOまで報告」「特定機能の不具合は担当チームリーダーの判断」といった具合です。
さらに重要なのは、対応手順の整備です。過去に発生した障害の対応手順をドキュメント化し、新しいメンバーでも適切に対応できる状態にします。オンコール体制が必要なサービスでは、明確なローテーションと引き継ぎの仕組みも欠かせません。
課題3:根本解決が進まない
「同じような障害が繰り返し発生する」という状況は、多くの組織が経験します。その場しのぎの対応を繰り返すうちに、チーム全体の疲弊や士気の低下にもつながりかねません。
再発防止を確実に進めるには、インシデントごとの振り返りを徹底します。具体的には、
・障害報告書の作成:何が起きたのか、なぜ起きたのか、どう対応したのかを記録
・根本原因の分析:表面的な現象だけでなく、なぜその問題が発生したのかを深掘り
・再発防止策の実施:システム改善、監視の追加、手順の見直しなど具体的なアクション
・効果の確認:実施した対策が有効に機能しているか、定期的に確認
といったことを行いましょう。
特に重要なのは、この一連のプロセスを形骸化させないことです。振り返りで得られた気付きを、確実にアクションにつなげる習慣づけが大切です。
平均修復時間の改善アプローチ
これまでの課題と解決策を踏まえ、組織として取り組むべきポイントを3つの視点から見ていきます。
プロセスの最適化
障害対応は「検知→判断→対応→確認」という流れで進みます。この一連の流れの中で、特に時間がかかっている部分を見つけ、改善していきます。
まず重要なのは、検知から初動までの時間短縮です。アラートを受けた際の最初の対応者(ファーストレスポンダー)を明確に決め、障害の種類や影響度に応じた対応フローを整備します。頻発する障害については、半自動化された対応手順を用意しておくと、さらに時間を短縮できます。
予防的な取り組み
まず取り組むべきなのは、障害そのものを減らすことです。システムの性能分析と改善を定期的に行い、脆弱性を早期に発見して対策を打ちます。デプロイプロセスの自動化を進めることで人的ミスも削減できます。監視の仕組みも継続的に見直し、問題の予兆をより早く捉えられるようにしていきます。
同時に、障害発生時の対応力も高めていく必要があります。過去に発生した重大インシデントを題材にした対応訓練を実施したり、システムの耐障害性をテストしたりすることで、チームの対応力は着実に向上します。新機能のリリース時には必ず切り戻し手順を確認し、問題が起きた際の手順を関係者全員が把握できるようにします。
さらに、システム面での自動化も進めます。特定のプロセスが異常終了した際は自動で再起動するよう設定したり、負荷が集中した際は自動でスケールアウトする仕組みを整えたりします。こうした自動化により、人手での対応が必要なケースを最小限に抑えることができます。
組織的な取り組み
複数のチームが関わる大規模な障害では、チーム間の連携が鍵となります。情報共有の遅れや認識の食い違いは、対応の遅れに直結するためです。
効果的な連携を実現するには、まず情報共有の仕組みを整理することから始めます。インシデント発生時の連絡は単一のチャンネルに集約し、関係者全員が同じ情報を共有できるようにしましょう。また、定期的な振り返りの場を設けることで、各チームの知見や課題認識を互いに理解し合えます。過去の対応事例も、チーム間で共有できるナレッジとしてまとめていきます。
そして特に重要なのは、日頃からの関係づくりです。チーム横断での対応訓練を通じて、いざという時にスムーズに連携できる土台を作ります。メンバーには様々な役割を経験させる機会を意図的に設け、他チームとの一時的な人材交流も積極的に行います。そうすることで、組織全体の対応力は着実に高まっていきます。
このように、情報共有の仕組みづくりと、人を育てる取り組みを両輪で進めることで、チームを超えた強い連携体制が築けます。
まとめ:平均修復時間の改善で実現できること
平均修復時間の改善は、数値目標の達成以上の価値をもたらします。インシデント対応の迅速化がユーザー体験と信頼性の向上につながるのはもちろん、組織の対応力そのものを強化する機会にもなります。
特に事業の成長フェーズでは、サービスの安定性がより一層重要になってきます。単なる障害対応の迅速化だけでなく、チーム間の連携強化や、経営層との円滑なコミュニケーションにもつながっていきます。
改善に向けては、まず現状を正確に把握することから始めましょう。計測基盤を整え、対応プロセスを標準化し、定期的な振り返りを通じて地道に改善を重ねていく。一足飛びな改善を求めるのではなく、着実に対応力を高めていくことが、長期的な成功への近道となります。
平均修復時間は、開発組織の成熟度を映し出す鏡です。この指標を軸に、組織全体でインシデント対応力を磨いていくことで、より強固な開発体制を築いていけるはずです。





