ホンダの「デジタルラボ」が挑む、AI駆動の内製開発プロセス【11/26開催・内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発イベントレポート】
ホンダの「デジタルラボ」が挑む、AI駆動の内製開発プロセス【11/26開催・内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発イベントレポート】

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2025年11月26日、ファインディ株式会社が主催するイベント「内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発」がハイブリッドで開催されました。
本記事では、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)の大坪 浩司氏による、内製開発を推進するため、AIエージェントを活用したUIデザインのネイティブアプリ実装ワークフローを中心とした講演の内容を詳しくお届けします。
◾️登壇者プロフィール
本田技研工業株式会社
SDVプロダクト企画部 デジタルラボ 内製SW開発Gr. リーダー
大坪 浩司
【略歴】
モバイルアプリエンジニア(iOS / Android)としてキャリアをスタート。その後、バイク向けコンパニオンアプリ『Honda RoadSync』、Apple Vision Pro向け『with Emile』のテックリードを担当。現在は、車載アプリ / モバイルアプリの内製開発を率いる内製SW開発Gr. のリーダーを務める。

皆さんこんばんは。本田技研工業の大坪と申します。ホンダでは現在、車向けのアプリを内製開発していますが、1年ほど前から本格的にAI駆動開発に取り組んできました。
今日はその取り組みの中で見えてきた学びや気づきを、皆さんと共有できればと思っております。
1.本田技研工業 デジタルラボについて

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。私はSDVプロダクト企画部のデジタルラボに所属しております。
キャリアとしてはモバイルアプリの開発からスタートしまして、現在は車載アプリやモバイルアプリの内製開発を率いる、内製ソフトウェア開発グループのリーダーをしています。
私が所属するデジタルラボというチームは、ホンダが持つ独自のプロダクトやアセットと、最新のデジタル技術を掛け合わせて、顧客価値とアイデアを高速に検証し、新しいサービスを創出することを使命としています。
普段内製で開発しているアプリは、実はかなり幅広いプラットフォームにまたがっています。
車載向けのAndroid Automotive OS向けのアプリはもちろん、スマートフォン向けのAndroid、iOSアプリ、さらにはVR・ARを活用したApple Vision Pro向けのアプリまで多岐にわたります。

こうした複数のプロダクトを並行してスピーディーに開発するために、グループのメンバーを各プロダクトチームにアサインして、スクラムの形式で開発を進めています。
私たちがこれまで進めてきた内製開発において、どのようにAI駆動開発を取り込み、実際に活用してきたのか。そのプロセスと具体的な事例を交えながらお話ししていきたいと思います。
2.AI駆動開発の取り込みと事例
まず最初に取り組んだのは、AI駆動開発のワーキンググループの立ち上げでした。

プロダクトごとに規模も状況もバラバラですので、どのプロダクトの視点も取り入れられるように、各チームからメンバーが参加する横断的な構成にしました。
活動内容としては、最適なAIツールの選定、実プロジェクトでの検証、そして得られた知見の横展開というサイクルを回しています。
3.1年間の活動を通して見えてきたこと

この1年間、AI開発に取り組んできて見えてきた重要なポイントが3つあります。
①AIツールを1つに絞りすぎないこと
1つ目は、AIツールを1つに絞りすぎないことです。
これまでのツール選定と同じ感覚で、比較して1つを選ぶというやり方を考えていましたが、AI領域はトレンドの変化が本当に早いんですね。
特定のツールにこだわると逆に視野が狭くなってしまいます。
そのため、複数のツールを並行して触り、幅広く知見を貯めておくことが大事だと感じています。
②プロンプト設計が成果を左右する
2つ目は、ツールそのもの以上にプロンプト設計が成果を左右するという点です。
どんな入力をするかによって出てくる結果が大きく変わります。
③チーム横断で成功体験を積み重ねること
そして3つ目が、チーム横断で成功体験を積み重ねることです。
AI活用は個人の思考に閉じる(属人化する)のではなく、得られた知見を属人化させずにチーム全体で共有して、誰でも再現できる形にすることが大切です。
そうすることで初めて、AI活用が個人の趣味ではなく、組織として根付く取り組みに育っていくのだと実感しています。
4.成功体験の横展開:UIデザイン取り込みの高速化
では、チーム全体でどうやって成功体験を作っていくか。
私たちはまず、どのプロダクトでも共通して成果が出やすく、かつ横展開しやすい「UIデザインの取り込み」というプロセスに着目しました。
私たちが抱えていた課題は、新しいサービスの仮説検証をとにかく高速で回したいという点にありました。
方向性が固まるまではデザインを柔軟に変更したいですし、プロトタイプツールでの検証もいいのですが、理想的には「実際に動作するアプリケーション」で高度な検証を行いたい。
特に車内空間での体験や、移動中での利用シーンなど、一般的なツールではカバーしきれない検証が多くあるからです。
そこで私たちは、UIデザインの取り込みを軸に、検証までのリードタイムを大幅に短縮するワークフローを構築しました。
今回は架空のiOSアプリを題材にご紹介しますが、この考え方はどのプラットフォームでも応用可能です。
使うのは大きく2つのツールです。1つはプロンプトからコードを生成できる「Figma Make」、もう1つはコードベースを理解して設計や実装を進められるAIエージェント型コーディングツールの「Claude Code」です。
5.「Figma Make」と「Claude Code」を活用した検証

具体的なワークフローは、まずFigma Makeで画面遷移を含めたWebアプリを作成します。

そこからReactのコードをエクスポートし、そのコードをClaude Codeに読み込ませて内容を解析させます。
その解析結果を踏まえて、iOS向けのUI/UXアーキテクチャ設計を策定し、最終的にネイティブコードで実装してもらうという5つのステップを踏みます。
このフローの肝は、Figma Makeで「模範となるWebアプリ」を数分で作り、それをClaude Codeが参考にしてiOSアプリとして実装するという二段構えにあります。

実際にFigma Makeに「ホンダのモビリティをコレクションするアプリを設計してください」と入力すると、約1分で一覧画面や詳細画面、タブ切り替えができるアプリが生成されます。
そのReactコードをClaude Codeに渡す際、私たちは「iOSアプリ開発スペシャリスト」という役割を与えたサブエージェントを用意します。
ここで非常に重要なのが、AIに「Human Interface Guidelines(HIG)に準拠しているか」をチェックさせ、指摘をもらうことが重要です。

Webアプリの動きをそのままiOSに持ち込むと、どうしても操作感が不自然になります。
例えば、Web由来のカスタムナビゲーションをiOS標準のタブバーに置き換えさせるといった指示を出すことで、iOSらしい自然な体験に仕上げることができます。
私たちが強調したいのは、Webアプリをピクセルパーフェクトに再現することが目的ではなく、AIをガイド役にして「最高のネイティブアプリ」へと再構築するという点です。
設計が固まった段階で、MVVMパターンに準じたファイル構造やコンポーネントのマッピングをAIに提案させ、実装へと進めていきます。

そうして出来上がったアプリは、スクロールは滑らかですし、カードをタップした時のハイライトや戻るボタンの挙動も、非常に「iOSらしい」自然な操作感になります。

結果として、開発スピードと品質を両立させることが可能になりました。
6.まとめ「小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体に広がる」

最後になりますが、AI駆動開発を組織に浸透させるためには、モデルの能力に頼りきるのではなく、模範となるコードや具体例をしっかり示してあげること、そしてステップごとにAIの理解を確認しながら進めることが大切です。
各チームに共通するスコープで小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体へと広がっていくはずです。
7.Q&Aパート
――ワークフローの中で、どの部分をどのようなメンバーが担当されているのでしょうか。
お答えとしては、ご質問いただいた内容そのままになりまして、Figma Makeを使ったデザインやプロトタイプの作成はデザイナーさんにお願いしています。
そして、そこからの設計やClaude Codeを使った実装はエンジニアが担当するという分担です。
このやり方を見つけたきっかけも、デザイナーさんがFigma Makeを触る中で「コードとして出力できる機能がある」と気づいてくれたことでした。
そこから「じゃあエンジニアと一緒に触ってみよう」という話になり、デザイナーとエンジニアが協力してトライしたことで、この1つの成功体験が生まれました。
――AIを導入することで、具体的にどのような変化を期待されていますか。
1年ほど使ってきて、アウトプット自体はある程度出せるということが分かってきました。今は次のステップとして、より少人数のチームでこのワークフローを試そうとしています。
少人数で始めることで、POやスクラムマスター、開発者が、AIに任せられる部分は徹底的に任せ、人間はより「アウトカム」の創出、つまりプロダクトが提供する価値そのものにしっかり意識を向けて活動していける。
そうすることで、組織としての開発がさらにスケールしていくのではないかと考えています。
――ナレッジ共有やオンボーディングでの活用について教えてください。
企画や実装だけでなく、プランニングでのタスク分解など、どうしてもオーバーヘッドがかかってしまう部分にAIを活用しています。また、Notion AIやNotebookLMを使って、社内のWikiや知識の共有を強化しています。
特にプロジェクトの異動や中途で入られた方は、車に関する特有のドメイン知識をキャッチアップするのが大変なのですが、そこをAIがサポートすることで素早くオンボーディングにつなげていく。こうした「知識の底上げ」という面でも、AIは非常に大きな役割を果たしてくれています。

今後もホンダのデジタルラボでは、AIを強力なパートナーとして迎え入れながら、これまでにないスピード感で新しい価値を形にしていきたいと考えています。
本日の内容が、皆さんの組織でのAI活用のヒントになれば幸いです。ありがとうございました。
2025年11月26日、ファインディ株式会社が主催するイベント「内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発」がハイブリッドで開催されました。
本記事では、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)の大坪 浩司氏による、内製開発を推進するため、AIエージェントを活用したUIデザインのネイティブアプリ実装ワークフローを中心とした講演の内容を詳しくお届けします。
◾️登壇者プロフィール
本田技研工業株式会社
SDVプロダクト企画部 デジタルラボ 内製SW開発Gr. リーダー
大坪 浩司
【略歴】
モバイルアプリエンジニア(iOS / Android)としてキャリアをスタート。その後、バイク向けコンパニオンアプリ『Honda RoadSync』、Apple Vision Pro向け『with Emile』のテックリードを担当。現在は、車載アプリ / モバイルアプリの内製開発を率いる内製SW開発Gr. のリーダーを務める。

皆さんこんばんは。本田技研工業の大坪と申します。ホンダでは現在、車向けのアプリを内製開発していますが、1年ほど前から本格的にAI駆動開発に取り組んできました。
今日はその取り組みの中で見えてきた学びや気づきを、皆さんと共有できればと思っております。
1.本田技研工業 デジタルラボについて

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。私はSDVプロダクト企画部のデジタルラボに所属しております。
キャリアとしてはモバイルアプリの開発からスタートしまして、現在は車載アプリやモバイルアプリの内製開発を率いる、内製ソフトウェア開発グループのリーダーをしています。
私が所属するデジタルラボというチームは、ホンダが持つ独自のプロダクトやアセットと、最新のデジタル技術を掛け合わせて、顧客価値とアイデアを高速に検証し、新しいサービスを創出することを使命としています。
普段内製で開発しているアプリは、実はかなり幅広いプラットフォームにまたがっています。
車載向けのAndroid Automotive OS向けのアプリはもちろん、スマートフォン向けのAndroid、iOSアプリ、さらにはVR・ARを活用したApple Vision Pro向けのアプリまで多岐にわたります。

こうした複数のプロダクトを並行してスピーディーに開発するために、グループのメンバーを各プロダクトチームにアサインして、スクラムの形式で開発を進めています。
私たちがこれまで進めてきた内製開発において、どのようにAI駆動開発を取り込み、実際に活用してきたのか。そのプロセスと具体的な事例を交えながらお話ししていきたいと思います。
2.AI駆動開発の取り込みと事例
まず最初に取り組んだのは、AI駆動開発のワーキンググループの立ち上げでした。

プロダクトごとに規模も状況もバラバラですので、どのプロダクトの視点も取り入れられるように、各チームからメンバーが参加する横断的な構成にしました。
活動内容としては、最適なAIツールの選定、実プロジェクトでの検証、そして得られた知見の横展開というサイクルを回しています。
3.1年間の活動を通して見えてきたこと

この1年間、AI開発に取り組んできて見えてきた重要なポイントが3つあります。
①AIツールを1つに絞りすぎないこと
1つ目は、AIツールを1つに絞りすぎないことです。
これまでのツール選定と同じ感覚で、比較して1つを選ぶというやり方を考えていましたが、AI領域はトレンドの変化が本当に早いんですね。
特定のツールにこだわると逆に視野が狭くなってしまいます。
そのため、複数のツールを並行して触り、幅広く知見を貯めておくことが大事だと感じています。
②プロンプト設計が成果を左右する
2つ目は、ツールそのもの以上にプロンプト設計が成果を左右するという点です。
どんな入力をするかによって出てくる結果が大きく変わります。
③チーム横断で成功体験を積み重ねること
そして3つ目が、チーム横断で成功体験を積み重ねることです。
AI活用は個人の思考に閉じる(属人化する)のではなく、得られた知見を属人化させずにチーム全体で共有して、誰でも再現できる形にすることが大切です。
そうすることで初めて、AI活用が個人の趣味ではなく、組織として根付く取り組みに育っていくのだと実感しています。
4.成功体験の横展開:UIデザイン取り込みの高速化
では、チーム全体でどうやって成功体験を作っていくか。
私たちはまず、どのプロダクトでも共通して成果が出やすく、かつ横展開しやすい「UIデザインの取り込み」というプロセスに着目しました。
私たちが抱えていた課題は、新しいサービスの仮説検証をとにかく高速で回したいという点にありました。
方向性が固まるまではデザインを柔軟に変更したいですし、プロトタイプツールでの検証もいいのですが、理想的には「実際に動作するアプリケーション」で高度な検証を行いたい。
特に車内空間での体験や、移動中での利用シーンなど、一般的なツールではカバーしきれない検証が多くあるからです。
そこで私たちは、UIデザインの取り込みを軸に、検証までのリードタイムを大幅に短縮するワークフローを構築しました。
今回は架空のiOSアプリを題材にご紹介しますが、この考え方はどのプラットフォームでも応用可能です。
使うのは大きく2つのツールです。1つはプロンプトからコードを生成できる「Figma Make」、もう1つはコードベースを理解して設計や実装を進められるAIエージェント型コーディングツールの「Claude Code」です。
5.「Figma Make」と「Claude Code」を活用した検証

具体的なワークフローは、まずFigma Makeで画面遷移を含めたWebアプリを作成します。

そこからReactのコードをエクスポートし、そのコードをClaude Codeに読み込ませて内容を解析させます。
その解析結果を踏まえて、iOS向けのUI/UXアーキテクチャ設計を策定し、最終的にネイティブコードで実装してもらうという5つのステップを踏みます。
このフローの肝は、Figma Makeで「模範となるWebアプリ」を数分で作り、それをClaude Codeが参考にしてiOSアプリとして実装するという二段構えにあります。

実際にFigma Makeに「ホンダのモビリティをコレクションするアプリを設計してください」と入力すると、約1分で一覧画面や詳細画面、タブ切り替えができるアプリが生成されます。
そのReactコードをClaude Codeに渡す際、私たちは「iOSアプリ開発スペシャリスト」という役割を与えたサブエージェントを用意します。
ここで非常に重要なのが、AIに「Human Interface Guidelines(HIG)に準拠しているか」をチェックさせ、指摘をもらうことが重要です。

Webアプリの動きをそのままiOSに持ち込むと、どうしても操作感が不自然になります。
例えば、Web由来のカスタムナビゲーションをiOS標準のタブバーに置き換えさせるといった指示を出すことで、iOSらしい自然な体験に仕上げることができます。
私たちが強調したいのは、Webアプリをピクセルパーフェクトに再現することが目的ではなく、AIをガイド役にして「最高のネイティブアプリ」へと再構築するという点です。
設計が固まった段階で、MVVMパターンに準じたファイル構造やコンポーネントのマッピングをAIに提案させ、実装へと進めていきます。

そうして出来上がったアプリは、スクロールは滑らかですし、カードをタップした時のハイライトや戻るボタンの挙動も、非常に「iOSらしい」自然な操作感になります。

結果として、開発スピードと品質を両立させることが可能になりました。
6.まとめ「小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体に広がる」

最後になりますが、AI駆動開発を組織に浸透させるためには、モデルの能力に頼りきるのではなく、模範となるコードや具体例をしっかり示してあげること、そしてステップごとにAIの理解を確認しながら進めることが大切です。
各チームに共通するスコープで小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体へと広がっていくはずです。
7.Q&Aパート
――ワークフローの中で、どの部分をどのようなメンバーが担当されているのでしょうか。
お答えとしては、ご質問いただいた内容そのままになりまして、Figma Makeを使ったデザインやプロトタイプの作成はデザイナーさんにお願いしています。
そして、そこからの設計やClaude Codeを使った実装はエンジニアが担当するという分担です。
このやり方を見つけたきっかけも、デザイナーさんがFigma Makeを触る中で「コードとして出力できる機能がある」と気づいてくれたことでした。
そこから「じゃあエンジニアと一緒に触ってみよう」という話になり、デザイナーとエンジニアが協力してトライしたことで、この1つの成功体験が生まれました。
――AIを導入することで、具体的にどのような変化を期待されていますか。
1年ほど使ってきて、アウトプット自体はある程度出せるということが分かってきました。今は次のステップとして、より少人数のチームでこのワークフローを試そうとしています。
少人数で始めることで、POやスクラムマスター、開発者が、AIに任せられる部分は徹底的に任せ、人間はより「アウトカム」の創出、つまりプロダクトが提供する価値そのものにしっかり意識を向けて活動していける。
そうすることで、組織としての開発がさらにスケールしていくのではないかと考えています。
――ナレッジ共有やオンボーディングでの活用について教えてください。
企画や実装だけでなく、プランニングでのタスク分解など、どうしてもオーバーヘッドがかかってしまう部分にAIを活用しています。また、Notion AIやNotebookLMを使って、社内のWikiや知識の共有を強化しています。
特にプロジェクトの異動や中途で入られた方は、車に関する特有のドメイン知識をキャッチアップするのが大変なのですが、そこをAIがサポートすることで素早くオンボーディングにつなげていく。こうした「知識の底上げ」という面でも、AIは非常に大きな役割を果たしてくれています。

今後もホンダのデジタルラボでは、AIを強力なパートナーとして迎え入れながら、これまでにないスピード感で新しい価値を形にしていきたいと考えています。
本日の内容が、皆さんの組織でのAI活用のヒントになれば幸いです。ありがとうございました。
ホンダの「デジタルラボ」が挑む、AI駆動の内製開発プロセス【11/26開催・内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発イベントレポート】

2025年11月26日、ファインディ株式会社が主催するイベント「内製化をスケールさせるAI時代のアジャイル開発」がハイブリッドで開催されました。
本記事では、本田技研工業株式会社(以下、ホンダ)の大坪 浩司氏による、内製開発を推進するため、AIエージェントを活用したUIデザインのネイティブアプリ実装ワークフローを中心とした講演の内容を詳しくお届けします。
◾️登壇者プロフィール
本田技研工業株式会社
SDVプロダクト企画部 デジタルラボ 内製SW開発Gr. リーダー
大坪 浩司
【略歴】
モバイルアプリエンジニア(iOS / Android)としてキャリアをスタート。その後、バイク向けコンパニオンアプリ『Honda RoadSync』、Apple Vision Pro向け『with Emile』のテックリードを担当。現在は、車載アプリ / モバイルアプリの内製開発を率いる内製SW開発Gr. のリーダーを務める。

皆さんこんばんは。本田技研工業の大坪と申します。ホンダでは現在、車向けのアプリを内製開発していますが、1年ほど前から本格的にAI駆動開発に取り組んできました。
今日はその取り組みの中で見えてきた学びや気づきを、皆さんと共有できればと思っております。
1.本田技研工業 デジタルラボについて

まず簡単に自己紹介をさせていただきます。私はSDVプロダクト企画部のデジタルラボに所属しております。
キャリアとしてはモバイルアプリの開発からスタートしまして、現在は車載アプリやモバイルアプリの内製開発を率いる、内製ソフトウェア開発グループのリーダーをしています。
私が所属するデジタルラボというチームは、ホンダが持つ独自のプロダクトやアセットと、最新のデジタル技術を掛け合わせて、顧客価値とアイデアを高速に検証し、新しいサービスを創出することを使命としています。
普段内製で開発しているアプリは、実はかなり幅広いプラットフォームにまたがっています。
車載向けのAndroid Automotive OS向けのアプリはもちろん、スマートフォン向けのAndroid、iOSアプリ、さらにはVR・ARを活用したApple Vision Pro向けのアプリまで多岐にわたります。

こうした複数のプロダクトを並行してスピーディーに開発するために、グループのメンバーを各プロダクトチームにアサインして、スクラムの形式で開発を進めています。
私たちがこれまで進めてきた内製開発において、どのようにAI駆動開発を取り込み、実際に活用してきたのか。そのプロセスと具体的な事例を交えながらお話ししていきたいと思います。
2.AI駆動開発の取り込みと事例
まず最初に取り組んだのは、AI駆動開発のワーキンググループの立ち上げでした。

プロダクトごとに規模も状況もバラバラですので、どのプロダクトの視点も取り入れられるように、各チームからメンバーが参加する横断的な構成にしました。
活動内容としては、最適なAIツールの選定、実プロジェクトでの検証、そして得られた知見の横展開というサイクルを回しています。
3.1年間の活動を通して見えてきたこと

この1年間、AI開発に取り組んできて見えてきた重要なポイントが3つあります。
①AIツールを1つに絞りすぎないこと
1つ目は、AIツールを1つに絞りすぎないことです。
これまでのツール選定と同じ感覚で、比較して1つを選ぶというやり方を考えていましたが、AI領域はトレンドの変化が本当に早いんですね。
特定のツールにこだわると逆に視野が狭くなってしまいます。
そのため、複数のツールを並行して触り、幅広く知見を貯めておくことが大事だと感じています。
②プロンプト設計が成果を左右する
2つ目は、ツールそのもの以上にプロンプト設計が成果を左右するという点です。
どんな入力をするかによって出てくる結果が大きく変わります。
③チーム横断で成功体験を積み重ねること
そして3つ目が、チーム横断で成功体験を積み重ねることです。
AI活用は個人の思考に閉じる(属人化する)のではなく、得られた知見を属人化させずにチーム全体で共有して、誰でも再現できる形にすることが大切です。
そうすることで初めて、AI活用が個人の趣味ではなく、組織として根付く取り組みに育っていくのだと実感しています。
4.成功体験の横展開:UIデザイン取り込みの高速化
では、チーム全体でどうやって成功体験を作っていくか。
私たちはまず、どのプロダクトでも共通して成果が出やすく、かつ横展開しやすい「UIデザインの取り込み」というプロセスに着目しました。
私たちが抱えていた課題は、新しいサービスの仮説検証をとにかく高速で回したいという点にありました。
方向性が固まるまではデザインを柔軟に変更したいですし、プロトタイプツールでの検証もいいのですが、理想的には「実際に動作するアプリケーション」で高度な検証を行いたい。
特に車内空間での体験や、移動中での利用シーンなど、一般的なツールではカバーしきれない検証が多くあるからです。
そこで私たちは、UIデザインの取り込みを軸に、検証までのリードタイムを大幅に短縮するワークフローを構築しました。
今回は架空のiOSアプリを題材にご紹介しますが、この考え方はどのプラットフォームでも応用可能です。
使うのは大きく2つのツールです。1つはプロンプトからコードを生成できる「Figma Make」、もう1つはコードベースを理解して設計や実装を進められるAIエージェント型コーディングツールの「Claude Code」です。
5.「Figma Make」と「Claude Code」を活用した検証

具体的なワークフローは、まずFigma Makeで画面遷移を含めたWebアプリを作成します。

そこからReactのコードをエクスポートし、そのコードをClaude Codeに読み込ませて内容を解析させます。
その解析結果を踏まえて、iOS向けのUI/UXアーキテクチャ設計を策定し、最終的にネイティブコードで実装してもらうという5つのステップを踏みます。
このフローの肝は、Figma Makeで「模範となるWebアプリ」を数分で作り、それをClaude Codeが参考にしてiOSアプリとして実装するという二段構えにあります。

実際にFigma Makeに「ホンダのモビリティをコレクションするアプリを設計してください」と入力すると、約1分で一覧画面や詳細画面、タブ切り替えができるアプリが生成されます。
そのReactコードをClaude Codeに渡す際、私たちは「iOSアプリ開発スペシャリスト」という役割を与えたサブエージェントを用意します。
ここで非常に重要なのが、AIに「Human Interface Guidelines(HIG)に準拠しているか」をチェックさせ、指摘をもらうことが重要です。

Webアプリの動きをそのままiOSに持ち込むと、どうしても操作感が不自然になります。
例えば、Web由来のカスタムナビゲーションをiOS標準のタブバーに置き換えさせるといった指示を出すことで、iOSらしい自然な体験に仕上げることができます。
私たちが強調したいのは、Webアプリをピクセルパーフェクトに再現することが目的ではなく、AIをガイド役にして「最高のネイティブアプリ」へと再構築するという点です。
設計が固まった段階で、MVVMパターンに準じたファイル構造やコンポーネントのマッピングをAIに提案させ、実装へと進めていきます。

そうして出来上がったアプリは、スクロールは滑らかですし、カードをタップした時のハイライトや戻るボタンの挙動も、非常に「iOSらしい」自然な操作感になります。

結果として、開発スピードと品質を両立させることが可能になりました。
6.まとめ「小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体に広がる」

最後になりますが、AI駆動開発を組織に浸透させるためには、モデルの能力に頼りきるのではなく、模範となるコードや具体例をしっかり示してあげること、そしてステップごとにAIの理解を確認しながら進めることが大切です。
各チームに共通するスコープで小さな成功を積み上げていくことで、AI活用の熱量は組織全体へと広がっていくはずです。
7.Q&Aパート
――ワークフローの中で、どの部分をどのようなメンバーが担当されているのでしょうか。
お答えとしては、ご質問いただいた内容そのままになりまして、Figma Makeを使ったデザインやプロトタイプの作成はデザイナーさんにお願いしています。
そして、そこからの設計やClaude Codeを使った実装はエンジニアが担当するという分担です。
このやり方を見つけたきっかけも、デザイナーさんがFigma Makeを触る中で「コードとして出力できる機能がある」と気づいてくれたことでした。
そこから「じゃあエンジニアと一緒に触ってみよう」という話になり、デザイナーとエンジニアが協力してトライしたことで、この1つの成功体験が生まれました。
――AIを導入することで、具体的にどのような変化を期待されていますか。
1年ほど使ってきて、アウトプット自体はある程度出せるということが分かってきました。今は次のステップとして、より少人数のチームでこのワークフローを試そうとしています。
少人数で始めることで、POやスクラムマスター、開発者が、AIに任せられる部分は徹底的に任せ、人間はより「アウトカム」の創出、つまりプロダクトが提供する価値そのものにしっかり意識を向けて活動していける。
そうすることで、組織としての開発がさらにスケールしていくのではないかと考えています。
――ナレッジ共有やオンボーディングでの活用について教えてください。
企画や実装だけでなく、プランニングでのタスク分解など、どうしてもオーバーヘッドがかかってしまう部分にAIを活用しています。また、Notion AIやNotebookLMを使って、社内のWikiや知識の共有を強化しています。
特にプロジェクトの異動や中途で入られた方は、車に関する特有のドメイン知識をキャッチアップするのが大変なのですが、そこをAIがサポートすることで素早くオンボーディングにつなげていく。こうした「知識の底上げ」という面でも、AIは非常に大きな役割を果たしてくれています。

今後もホンダのデジタルラボでは、AIを強力なパートナーとして迎え入れながら、これまでにないスピード感で新しい価値を形にしていきたいと考えています。
本日の内容が、皆さんの組織でのAI活用のヒントになれば幸いです。ありがとうございました。





